第34話 緊急依頼
ツーガルの入り口まで着くと、いつもの門番の二人が気さくに声をかけてくる。
「よう、鼻の長い兄ちゃん!」
「ずいぶん久しぶりだなぁ!」
冒険者活動を休止したために、この町に足を運ぶのも久々だというのは本当のことだ。
僕も気さくに手を振ることで、門番に通してもらう。
そしてタンゴとサクラを鼻の中にしまってからギルドへ向かうと、入り口で待っていたのは冒険者仲間のスイートちゃんだった。
「久しぶりだね、スイートちゃん」
僕がそう声をかけたら、スイートちゃんがずいっと顔を寄せてくる。
「タスク様、どうしてここに? ユメと一緒に休暇をとっていたはずじゃ……」
「それがねスイートちゃん、ギルマスから手紙で呼び出されたんだ。……それとスイートちゃん近いよ」
僕の指摘で一歩距離を取ったスイートちゃんは、あごに手を添えてうつむいた。
「……タスク様もだった」
「ということはスイートちゃんも?」
僕の問いかけにスイートちゃんはこくんとうなづく。
「とにかく行こっか」
「それもそう」
スイートちゃんと一緒にギルドへ入るなり、武装した人たちが十人ほど一同に集められているのが目に飛び込んだ。
「あれ、どうしたんだろう?」
「あの人たちも呼ばれたのかも」
なるほど、あの人たちも冒険者なんだね。
僕がその中に入ろうとすると、柄の悪い三人の男たちに呼び止められた。
「そこの変な顔したお前っ」
「ここに何しに来たぁ?」
うわあ、なんかうざったい感じで絡んできたよこの人たち。
無視しようとしたら、三人目の男がこんなことを。
「変な顔のくせに女連れてるじゃねーか! その女をよこせよ」
ぶちっ。それはさすがに聞き捨てならないぞう!
僕が怒りと共に振り向こうとするまでもなく、スイートちゃんが背後に魔力のオーラを放ち始める。
「ひ、ひいっ!?」
「何だこの魔力はぁ!」
殺気にビビる男たちに、スイートちゃんはダメ押しとばかりにドスのきいた声で忠告した。
「身の程をわきまえろ。あと、タスクを変な顔だなんて言うな」
「は、はいい~~!!」
柄の悪い三人組を退けたスイートちゃんは、続いて僕に腕を絡ませる。
「あ、ありがとうスイートちゃん」
「あんな奴ら、タスク様の手を煩わせるまでもない」
「う、うん」
これはスイートちゃんを怒らせない方が良さそうだな……。
冒険者の集まりの中で待っていると、筋骨粒々な壮年の男がやってきて皆の前に立つ。
あの人がギルマスか……、ギルドに入ってから一年経つけど会うのは初めてだ。
「よくぞ来てくれた。諸君に集まってもらったのは他でもない、緊急の討伐依頼を受けてもらうためだ」
ギルマスの言葉に冒険者一同がざわめく。
そりゃそうだよ、だってこんな形で集められるなんて僕も初めてだもん。
「あの……、緊急の討伐依頼って何ですか?」
「タスクだったか、ギルドでも君のことは話題になってるぞ、なんでも一人でキングスコーピオンを倒したとな」
歯を見せてニカッと笑うギルマスの言葉で、冒険者一同がまたざわめいて僕に視線が集中する。
「タスク様は強い。冒険者を始めたばかりだからまだブロンズランクだけど、実力的にはシルバーランクと遜色はないはず」
「マジかよそれ……!?」
「これは怒らせないでおこうぜ……」
スイートちゃんの補足で、さっきのチンピラたちを含めた冒険者たちが僕から距離を取った。
「あの……みんな仲良くやりましょうよ。僕だってそんな魔物みたいに恐ろしい存在だなんて思われたくないですし」
僕がそう言ったものの、冒険者たちは歩み寄ろうとしない。
「ゴホンっ。タスクのことはそこまでにしといて依頼の話をしよう。実はムッツー近郊でランドラゴンの群れが目撃されている」
「ランドラゴン?」
聞きなれない名前に首をかしげた僕に、スイートちゃんが耳元にささやくよう説明してくれた。
「ドラゴンの一種で、地上を走るのに長けた種族」
なるほど、地を走るドラゴンなんだね。
……この世界にはドラゴンもいるんだ! それは一目見てみたいぞう。
「タスク様、なぜ楽しそう?」
「ううん、気のせいだよスイートちゃん」
そうだ、浮き足たってる場合じゃない。
これは緊急の依頼なんだ。
「ランドラゴンは危険度Dランクの魔物、そういうわけでブロンズランクの中でも実績を上げている諸君らにお呼びをかけたわけだ。もちろん報酬は弾むぞ」
説明を聞き終えて一旦解散になったところで、僕とスイートちゃんも準備に取りかかることに。
具体的には薬や携帯食料の確保かな。
一通り必要なものを揃えたところで、僕はひとまず村に帰ることにしたんだけど。
「スイートちゃんもついてくるの?」
「一度挨拶しに行った方がいいかと」
なんだろう、スイートちゃんの眠たげな目がいつになく真剣だ。
スイートちゃんをサクラに乗せて、僕はタンゴに乗る。
次はタンゴの背中に乗るって、約束したもんね。
そして一旦村に帰ってきたんだ。
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