象さんのドラゴン退治

異世界生活から一年経った頃

第33話 幸せな新生活

 僕が象の顔でこの世界に転生してから一年余りが経った頃、僕はこの日もワンダー家の農作業を手伝っていた。


「よいしょっ、よいしょっと」


 鍬を手に畑を耕す僕に、テリーさんがお礼を言ってくれる。


「いつも畑仕事を手伝ってくれて助かるよ」

「いえいえ、これくらいお安いご用ですよお義父さん」


 にっこり笑って親指を立てる僕に、テリーさんも朗らかな笑顔を見せた。


 自慢じゃないけど僕のスキルはなシャワーで作物がぐんぐん育つことで、村の収入も潤ってるらしい。


 それで半年くらい前に村長さんにいたく感謝されたっけ。


 そんなことを回想しながら畑仕事をしていたら、嫁のユメちゃんが声をかけてくれた。


「おーい、あなた~! 調子はどう?」

「うん、こっちは順調だよ~」


 そう伝える僕に手を振るユメちゃん、その胸にはほんの少し前に生まれたばかりの赤ちゃんが抱かれている。


「ちょっと待ってて、もうすぐ一段落つくから」

「はーいっ」


 張り切って畑仕事を一段落つけたところで、僕はユメちゃんと娘のもとに駆け寄った。


「ハナちゃ~ん、パパでちゅよ~」

「だぁだぁ! えへへ~」


 僕の顔を見て娘のハナちゃんが無邪気に笑う。


 ああ、愛娘が可愛すぎて辛いっ。


 象の顔した僕の血が入ってるんだけど、幸い顔は母親のユメちゃん似で、初めて対面したときは心底安心したっけ。


 でも目だけは僕に似てるって、ユメちゃんが言ってたなぁ。


「ねえユメちゃん、僕もハナちゃんを抱いていい?」

「もちろんだよ。だけどまずは着替えてからねっ、そのままじゃ可愛い可愛いハナが土で汚れちゃう」

「それもそうだね」


 ユメちゃんに言われて僕は象さんハウスに戻って、急いで着替えて戻ってくる。


「じゃーん、着替えてきたよ」

「それでよしっ。はい、あなた」


 にこやかな笑みのユメちゃんから、僕は娘のハナちゃんを受け取った。


「えへへへ~」

「あ、またハナちゃんが笑った!」

「全くも~、あなたもデレッデレじゃないのー」


 僕の腕に抱かれて笑う愛娘に、僕はすっかり骨抜きにされてしまう。


 それにしてもずっしり重い、なんでも村の赤ちゃんの中では一番大きく生まれてきたって村長さんが言ってたっけ。


 そうかと思えばハナちゃんが突然グズリ始めた。


「そろそろおっぱいね。ほらあなた、ハナちゃんを返してちょうだい」

「はーい」


 泣きわめくハナちゃんを僕が返すなり、ユメちゃんは象さんハウスに帰っていく。


 そんなユメちゃんについて僕も歩くと、いつの間にかリリちゃんがユメちゃんのそばにいた。


「やっぱり可愛いです~!」

「でしょでしょ~! リリにもいつかはこんな可愛い赤ちゃんができるといいねっ」

「は、はわわわ……!」


 ニカッと笑うユメちゃんの言葉に、リリちゃんはポッと顔を真っ赤にしてしまう。


「ユメちゃん、年頃の女の子にそんなデリケートな話はよくないよ」

「あはは、それもそうだね」


 僕がひそひそささやくと、ユメちゃんも照れ隠しに頭をさする。


 姉妹と赤ちゃんを含めたそんな毎日のやり取りが、僕には全部微笑ましくて今が一番幸せだった。


 象さんハウスに帰ると、象の形をしたポストに手紙が入っているのをユメちゃんが見つける。


「あ、ギルドからだ。タスクも見てみなよ」

「どれどれ~?」


 ユメちゃんが広げた手紙には、こんなことが書いてあった。


『冒険者のタスクよ、至急ギルドに来い。ギルドマスターのライアンより』

「僕宛か……」


 もう一年くらい前から育休に入っていて、僕たちは冒険者としての活動も休止しているんだ。


 そんな折にこの手紙、どうしたんだろう……?


「それじゃあ行ってくるよ。用事を聞いたらすぐ帰ってくるからね」

「分かってるよあなた、いってらっしゃい」


 にこやかに手を振る嫁に見送られて、僕はギルドのあるツーガルへ行くことに。


「出番だよ、サクラにタンゴ」


 僕が呼び掛けるなり鼻の穴から出てきた二つの豆粒が、ピンク色のサクラと水色のタンゴになる。


「「ぱおーん!」」


 二頭揃って元気よく声をあげる二頭の象さんに、僕はこう頼んだ。


「それじゃあサクラ、背中に乗せてよ」

「もちろんだぞう!」


 そう答えたサクラが差しのべた長い鼻に足をかけて、僕はその高い背中に乗せてもらう。


 するとタンゴがこんなことを。


「あの……、帰りはぼくの背中に乗ってくれるパオ?」

「分かったよタンゴ、約束する」

「ありがとうパオ」


 相変わらず控えめなタンゴにも、僕は平等に微笑みかける。


「それじゃあ出発進行ー!」

「「ぱおーん!」」


 こうして僕は二頭の象さんを引き連れてツーガルまでの道を行くのだった。

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