第31話 もうひとつの告白

「――ということがあったんだ」


 その夜、僕は象さんハウスのベッドででユメちゃんにリリちゃんのことを話したんだ。


「そう……。それで、リリとは話したの?」

「ううん。あの後リリちゃんは顔もあわせてくれなかったから……」

「そっか……」


 僕の報告にユメちゃんも難しい顔で腕組みをしている。


「これは重症ね」

「えっ、リリちゃん病気なの!?」

「違うって。これは完全に機嫌を損ねてる、あんたも心当たりあるんじゃない?」


 ユメちゃんの言葉に、僕はハッと気づかされた。

 そうだ、最近は仕事に必死でリリちゃんのことそっちのけだった!


「そりゃあリリちゃんも怒って当然だよね……」


 リリちゃんにお洋服を買ってあげるために頑張ってたはずなのに、これじゃあ本末転倒じゃないか。


「ユメちゃん、明日リリちゃんに謝るよ」

「それがいいよ、タスク」


 僕の決心にユメちゃんは柔和な笑みを浮かべる。


「それよりも、あたしたちもやることやっちゃおうよ」

「やること……? ――って、ちょ!?」


 そうかと思えばユメちゃんは服を脱いで下着一枚になっていた。


 今日はマゼンタ色で布面積のきわどい下着で、セクシーさがハンパない。


「あたしだって最近仕事ばかりで寂しかったんだからね?」

「ユメちゃん……!」


 甘える子猫みたいにそう言うユメちゃんを、僕は思わず押し倒す。


「ふふっ、タスクも男だよね」


 そして僕とユメちゃんの夜は淫らに更けていくのだった……。


 翌朝、僕はワンダー家の扉をノックする。


 すると出てきたのはリリちゃんだった。


「あ、タスクさん!?」


 僕を見るなり目を真ん丸にするリリちゃんに、僕は深々と頭を下げる。


「リリちゃん、ごめんっ!」

「ふえっ!? いきなりどうしたんですかタスクさん!」


 オロオロするリリちゃんの前で、僕は弁解の言葉を連ねた。


「最近はお金稼ぎのための仕事にかまけてばかりで、リリちゃんとの時間を全然とれてなかった! こんな初歩的なことにも気づいてあげられないなんて、僕は馬鹿だ!!」

「ちょっとっ、落ち着いてくださいタスクさん! リリは怒ってませんから~!」


 え、そうなの?


「怒ってないの? リリちゃん」

「はいっ。タスクさんがリリのために忙しくしてること、リリはちゃんと分かってます。むしろ謝らなきゃなのはリリの方です!」

「リリちゃん……?」


 ポカーンとする僕の前で、リリちゃんはスカートの裾をぎゅっとつまんでモジモジしながら伝えてくれた。


「リリね、最近変なんです。お姉ちゃんと結ばれて幸せになったタスクさんがなんか遠くに行ってしまったみたいに思えて、その……」

「それってやっぱり僕が仕事ばかりだったからじゃ……」

「そういう意味じゃないんです! 最初はリリのすぐそばにいてくれたはずのタスクさんが、その……お姉ちゃんにとられてしまったみたいで……リリ、バカみたいですよね」

「リリちゃん、それって……」


「――あーもう、そーゆーことなら言ってくれればいいのに!」


 そこへ間に割り込んできたのはユメちゃんだった。


「それってさぁ、リリもタスクのことが好きなんでしょ? それならそうとハッキリ言いなよ!」

「え、そうなのリリちゃん!?」


 今さらながら僕が真意に気づいたところで、リリちゃんは顔を真っ赤にしている。


「いえ、リリはその……!」

「あ、図星だった? 野暮なことしてごめん……」

「いえ! お姉ちゃんは悪くないです! タスクさんはもうお姉ちゃんと結婚してますから、リリの想いなんて……」


 指をトボトボと突き合わせながらすみれ色の目に涙を浮かべるリリちゃんに、ユメちゃんはこう言った。


「あら、別に一人だけしか結婚できないなんて誰も言ってないでしょ? 世の中奥さんを何人も持ってる人だって結構いるんだから」

「え、そうなのユメちゃん!?」


 それって一夫多妻だよね、まさか異世界ってそんな決まりになっていたなんて。


「だけどお姉ちゃん! 奥さんが何人もいるなんて王様とか貴族の話でしょ!? お父さんとお母さんだってそんなことしてないですし、タスクさんだって……!」


 異を唱えるリリちゃんに、ユメちゃんは指をたてて言い聞かせる。


「あら、タスクならそれだけの甲斐性あるってあたしは思うけどな。少なくともあたしはリリもタスクのお嫁さんになっていいんじゃないかなって」

「あの……」

「それも一理ありますね~。――決めました、リリもタスクさんのお嫁さんになります!!」

「よくぞ言った、可愛い妹よ!」


 顔を真っ赤にしながらのリリちゃんの宣言に、ユメちゃんは親指をたてた。


「そうと決まれば父さんに報告ね!」

「はい! お姉ちゃん!!」

「――ちょっと待った~~!!」

「あれ、タスク?」

「二人とも何勝手に話進めちゃってるの!? 僕まだリリちゃんもお嫁さんにするなんて、一言も言ってないんだけど!!」


 僕が待ったを唱えるも、リリちゃんはうるうるとした目でこう言う。


「……そうですよね、リリなんてタスクさんのお嫁さんにふさわしくないですよね……」

「いや、そういう意味で言ったんじゃ……!」


 あれ、何これ。どうして僕に不利な状況になっちゃってるの!?


 ここは僕から一言ガツンと言わなくちゃ。


「ゴホンっ。もちろん僕もリリちゃんのこと大好きだよ」

「ホントですか!?」


 リリちゃん、目をキラキラとお星さまのように輝かせてるけどまだ話は終わってないよ。


「だけどねリリちゃん、そういう大事なことを決めるにはまだ早すぎると僕は思うんだ」

「リリがまだ子供だから、ですか……?」

「そうだよ。でも約束する、もしリリちゃんがユメちゃんくらいの年頃になって、まだ僕のことを好きでいてくれるならその時はリリちゃんとも結婚しようと思う」


 指をビッと立てる僕の言葉に、リリちゃんはモジモジしながら答える。


「は、はい! リリは大人になってもタスクさんのこと好きでいます! だからその……約束してください!!」


 リリちゃんが懸命に差し出した手を、僕は優しく鼻を添えた。


「うん。だから昨日までのことはもうおしまいっ」

「はい!」

「うんうん、これで万事解決だねぇ~」


 なんかユメちゃんに乗せられた気がしないでもないけど。


 何はともあれリリちゃんとのわだかまりも解くことができたんだ。

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