第30話 野菜促進
翌日、僕は村でテリーさんたちの畑仕事を手伝うことに。
本当はユメちゃんと一緒に冒険者の仕事をしたかったけど、彼女に今日は村に留まるよう釘を刺されてしまったんだ。
なんでだろう……?
釈然としないまま畑に向かった僕は、そこで育ち始めた野菜を目の当たりにした。
「もうこんなに育ってるんですね!」
「タスク君が来てからもう二ヶ月経つからな」
テリーさんの言う通り、僕がこの異世界に来てからもうそんなに経つんだっけ。
「それじゃあよろしく頼んだよ、タスク君」
「はい! 任せてください!」
嫁のユメちゃんと別行動なのは寂しいけど、僕は僕で頑張らないと。
まずは畑の草むしりから。
両手と器用に動く鼻を総動員して、僕は畑の雑草を手当たり次第抜いていく。
「やはりタスク君がいると早いな~」
「ほんとね、助かるわ~」
テリーさんにプーリーさん、まだまだこんなものじゃないですよ。
「それそれそれそれ~!」
さらにギアを上げた僕は、怒涛の勢いで雑草をむしった。
ついでに食べられそうな草は匂いで判別してから口に運んで栄養補給。
象の顔だからか、こういう草も美味しく食べられるんだ。
草むしりを速攻で終わらせたところで、次は畑の水やり。
これも僕は持ち前の怪力で手際よく水を運んで撒いていく。
……そうだ、ついでにプーリーさんの病を治したあのスキルを試してみよう。
「はなシャワー」
そう唱えるなり僕の鼻から煌めく水が噴き出すと、それを浴びた野菜がなんと瞬く間に急成長し始めたんだ。
「わわっ、なんだ~!?」
思わぬ出来事に僕が目を白黒させていると、テリーさんが慌てて駆けつけてくる。
「どうしたんだねタスク君……って、なんだこれはぁ!?」
あんぐりと口を開けるテリーさんの前で、野菜はあっという間に収穫時にまで育ってしまった。
「ごめんなさい! つい僕のスキルを試してみたら野菜がこんなに……」
頭を下げて謝ると、テリーさんが僕の肩を掴んで目を光らせる。
「すごいじゃないかタスク君! 君のスキルがあれば野菜を一年に何度でも育てられるかもしれない!!」
「へ……?」
あれ、もしかしてこれ喜ばれてるのか……?
てっきり収穫スケジュールを大きく乱して困らせちゃうと思ったんだけど。
「こうしちゃいられない! タスク君、君のスキルを畑全体に撒くんだ!」
「は、はいっ! お義父さん!」
こうして僕のはなシャワーを畑全体に撒いて、作物全てを収穫時まで一気に育て上げたんだ。
「ぜえ、ぜえ……疲れた~!」
スキルを酷使して疲労困憊になった僕は、畑のすぐそばで大の字に寝そべる。
結局あの後ワンダー家の畑にとどまらず村全体から助けを求められて、村にある畑全部にはなシャワーを撒く羽目になってしまったんだ。
荒くなった息を整えようとしていると、そこへ小さなモモちゃんがやってくる。
「タスクにーちゃん、だいじょーぶ?」
「モモちゃん……僕もうヘトヘトだよ~」
目の前でしゃがむモモちゃんに対して、僕は返事するのがやっと。
「そうだタスクにーちゃん、できたてのおやさいたべる?」
「食べる!」
できたての野菜と聞いた僕は、元気を取り戻して身体を起こす。
「はい、これどーぞっ」
モモちゃんが手渡してくれたのは真っ赤なニンジン。
受け取ったそれをかじってみると、いつものニンジンなんて目じゃない甘さが口一杯に広がった。
「何これ!? このニンジン美味しすぎるよ~!」
「にーちゃんがそだてたおやさいだって、おとーさんがいってた!」
にっと笑みを浮かべるモモちゃんに、僕は手をポンと叩いて合点がいく。
そうか、はなシャワーを浴びた作物は成長が急加速するだけじゃなくて味も格段に向上するんだ。
それにさっきまでの疲れも一気に吹き飛んだ気がするよ。
「ありがとう、モモちゃん。これでまた頑張れそうだよ」
「えへへ~」
モモちゃんの頭をナデナデしてあげたところで、僕はふと疑問に思う。
「そういえばリリちゃんは?」
「リリねーちゃんならおうちにいるよ。タスクにーちゃんにあいたくないのかなぁ?」
「……そっか」
昨日もそうだったけど、リリちゃんの様子がおかしい。
どうしたんだろう……?
そんなことを考えていたら、モモちゃんが腕に組みついてきた。
「そんなことよりこんどはモモとあそぼーよー!」
「はいはい分かった。何して遊ぶ?」
「モモね、ボールあそびがいい!」
そういうモモちゃんは、もうボールを持ってきている。
「あはは、もう準備万端だねっ」
「うんっ!」
もう一度頭をナデナデしてから、僕はモモちゃんとボール遊びをすることにした。
「タスクにーちゃん、それぇ!」
モモちゃんが元気に蹴るボールを、僕が足で押さえてから蹴り返す。
異世界にもこんな遊びがあるんだ。
「あははっ、タスクにーちゃんおもしろーい!」
「それはどうも」
楽しくボールを蹴りあっていると、ふとワンダー家の窓から物欲しげに見つめるリリちゃんの姿が目に止まる。
「あれ、リリちゃん……」
「それぇ!」
「あたっ!?」
――よそ見をしてたらモモちゃんの蹴ったボールが顔面に当たってしまった。
「あーっ、ごめーん!! いたくなーい!?」
「あはは……僕は平気だよモモちゃん。それよりも……」
僕が再び目を向けると、リリちゃんは窓辺から姿を消した後だった。
「リリちゃん……」
本当に大丈夫かなぁ……?
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