第29話 難しいお年頃
村に帰ってワンダー家に足を運ぶと、早速出迎えてくれたのはモモちゃんだ。
「ユメねーちゃんにタスクにーちゃん、おかえりー!」
サクラから降りた僕に飛び付くモモちゃんは、短いサイドテールを揺らしている。
まるで帰りを待っていた子犬みたいだ。
「ただいま、モモちゃん。久しぶりだね」
「もータスクにーちゃんおそすぎだよ~!」
「ごめんねモモちゃん、これで勘弁してくれる?」
頬をプクーっと膨らませるモモちゃんに対して、僕はその頭をナデナデしてあげる。
するとモモちゃんは嬉しそうにニコニコ笑った。
「うん、モモはいいよっ」
良かった、これで許してもらえたみたい。
少し遅れて家から出てきたのは、長いツインテールが可愛いリリちゃんだった。
「お帰りなさいタスクさん。お仕事お疲れ様です」
「うん……なかなか帰れなくてごめんね」
「いえいえっ、リリは気にしてませんよ」
手を振り乱して取り繕うリリちゃんはいつも通りに見えて、僕はひと安心する。
ふとユメちゃんがこんなことを言い出した。
「それじゃあ今日は久しぶりに実家にお世話になろっかな」
「え、僕たちには象さんハウスがあるけど……」
「たまにはいいでしょタスク、あたしにとってはここも帰る場所の一つなんだからさ」
そっか、ユメちゃんにとってはこのおうちこそが生まれ育った場所であり、元々の帰る場所だったんだ。
「じゃあ僕もちょっとお邪魔しようかな」
「お邪魔だなんてそんな、タスクだってもううちらの家族じゃん!」
同じ家族、か。ユメちゃんにそういわれるとなんだか嬉しいぞう。
「それじゃあお言葉に甘えて」
そうして僕はユメちゃんと一緒に、久しぶりのワンダー家にお世話になることにした。
家に入るなり目を丸くしたのは、三姉妹の父親であるテリーさん。
「おや、タスク君もユメも久しぶりじゃないか。どうしたんだい?」
「えへへ、父さん。ちょっとホームシックになっちゃってね」
そう笑顔でうそぶくユメちゃんを、テリーさんも歓迎する。
「そうか。ここにはいつでも帰ってきていいんだぞ。――もちろんタスク君もな」
「ありがとうございます、お義父さん」
僕が頭を下げると、モモちゃんが今度は手を握って誘ってきた。
「タスクにーちゃん、あそぼーよ~!」
「よーっし、それじゃあ遊ぼっかモモちゃん」
「わーい!」
腕を振り上げて喜び全開なモモちゃんに、僕はこう問いかける。
「それじゃあ何して遊ぶ?」
「えーとねー、じゃあおままごと! リリねーちゃんもいっしょにやろーよ!」
「いえ、リリはいいです。それじゃあ」
誘いを振られたリリちゃんだけど、彼女は控えめに断って奥に引っ込んでしまった。
「ぷーっ、リリねーちゃんつまんない!」
膨れ面のモモちゃんに、姉のユメちゃんが諭すようにこう言う。
「あはは、リリもきっと難しい年頃なんだよ。代わりにお姉ちゃんが付き合ってあげるからさ」
「ホント!? やったー、ユメねーちゃんだいすき!」
モモちゃんに抱きつかれて、ユメちゃんも嬉しそうだ。
「難しい年頃、かぁ。リリちゃんもいろいろと悩んでるのかな……?」
とはいえ無理に迫ってもお節介にしかならないだろうし、そもそもあの年頃の悩める女の子との接し方なんてよく分からない。
そういうわけでひとまず僕は、素直なモモちゃんと遊ぶことにした。
木でできたオモチャの食器を使ったおままごとは、どこか懐かしい感覚を呼び起こされて意外と楽しい。
「はいタスクにーちゃん、あーん」
モモちゃんが木のスプーンを近づけてきたので、僕も口を開けて食べるふりをする。
「もぐもぐ、ああ美味しいっ」
「えへへっ、でしょでしょ~?」
何よりもそうやって楽しそうに笑うモモちゃんが可愛いんだまたっ。
……リリちゃんも一緒ならもっと楽しかったんだけどなあ。
「ん、タスクにーちゃんどーしたの?」
「ううん、なんでもないよモモちゃん」
そうして僕はモモちゃんが満足するまでおままごとに付き合ったんだ。
ワンダー家で久しぶりに食べる夕飯、この日のメインディッシュは山鳥のロースト。
「うん、美味しい! さすが母さん!」
「うふふっ、まだまだユメには負けないわよ~?」
ユメちゃんたち三姉妹の母親であるプーリーさんの手料理は、相変わらず美味しくて手が止まらない。
ちなみにこの山鳥はユメちゃんが仕事の片手間に捕まえたものだ。
そしてプーリーさんの焼いたパンも野菜のスープも美味しいんだ!
手だけじゃ足りなくて器用に動く鼻も総動員して、僕は美味しい手料理を堪能する。
「まあ、タスクさんったらすごい食べっぷりね~。……ユメ、旦那様にはちゃんと食べさせてる?」
「当たり前でしょっ。あたしだって料理頑張ってるんだから!」
プーリーさんとユメちゃんがにらみあうも、すぐに笑い出してしまった。
「いやー、やっぱりみんな愉快で楽しいよ!」
「そういってもらえて何よりだわ」
「タスク君も一家の一員として溶け込めてるみたいだな」
「いや~それほどでもないですよー」
照れ隠しに頭をさすっていたら、僕から顔を背けてチビチビとスープをすするリリちゃんが目にはいる。
「リリちゃん?」
「――はっ! いえ、なんでもないですっ」
僕が声をかけたら、リリちゃんはビックリしたように席を立って自分の部屋に戻ってしまった。
どうしちゃったんだろう……?
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