第27話 結婚式

 家具や雑貨を揃えて家内を整えたところで、その翌日にリリちゃんやテリーさんをはじめとしたワンダー一家を象さんハウスに招待することにした。


「それにしてもへんなおうち~」

「やっぱりそう思う……?」


 モモちゃんのストレートな感想はちょっと落ち込むぞう。


「こらモモ、タスクさんのおうちをそんな風に言っちゃダメでしょ! タスクさんに謝りなさいっ」

「はーい。タスクにーちゃん、ごめんなさい」


 リリちゃんに注意されて謝ってくれたモモちゃんの頭を、僕はナデナデしてあげた。


「ううん、僕は気にしてないよモモちゃん」

「えへへ~」


 撫でられてふにゃんとした笑顔を見せるモモちゃんを傍らに、テリーさんとプーリーさんがこんなことをささやいている。


「やっぱりタスク君はいい男だな、娘たちもすっかり懐いてるよ」

「これだったらユメだけなんて言わないで、うちの娘たち全員もらってくれてもいいのにね~」


 プーリーさん? それって冗談だよね……。


 そんなことでちょっと寒気を感じたところで、僕とユメちゃんで象さんハウスの中にいざなった。


「わぁ~!」

「はわわ~!」


 パステルカラーに塗装した内装と広々とした空間に、リリちゃんとモモちゃんが目をキラキラさせている。


「可愛いリビングですね~!」

「リリちゃん、この部屋の壁はみんな僕とユメちゃんの二人で塗ったんだよ」

「お姉ちゃんもすごいでしょ~!」


 僕とユメちゃんの説明に、リリちゃんはすっかり感心していた。


「やっぱりタスクさんはすごいです」

「タスクにーちゃん、このおうちモモもすんじゃダメ~?」

「あはは、モモちゃんにはおうちがちゃんとあるでしょ」

「そうですよモモ。このおうちはタスクさんとお姉ちゃんの二人の物なんです」

「え~! ぷ~っ」


 すっかり膨れ面のモモちゃんに、一同はドッと笑いに包まれる。


「それにしても立派な家だ。これをタスク君が一人で建てたのかね?」

「まあ、僕にはそのためのスキルがありましたから……」

「うちのユメもこんな素敵な家があって、さぞ幸せになるだろう。頼んだぞ、タスク君」


 そう言ったテリーさんに手を肩に置かれた僕は、その目を見てしっかりと応えた。


「はい、ユメちゃんは僕が必ず幸せにします!」


 それから全ての区画を披露したところで、ユメちゃんがみんなに手料理を振る舞う。


「さあさあ、あたしの手料理食べてよ!」


 そう言ってユメちゃんがみんなに手渡したのは、焼きたてのパウンドケーキだ。


「それじゃあみんなで食べようか」

「はい、タスクさん」


 みんなで一緒にケーキを食べると、僕の口の中にもバターのコクと果物の甘味が一杯に広がる。


「美味しいよ、ユメちゃん」

「ユメもすっかり料理の腕が上達したわね~」

「ホント? 良かった~」


 僕とプーリーさんの評価に、ユメちゃんも胸を撫で下ろした。


 こうして象さんハウスの紹介は楽しく終わりを告げたんだ。


 それからというもの、村は僕とユメちゃんの結婚に向けて動き出している。


 もちろん僕も会場の準備だったりいろんなことを手伝ったりしたよ。


 僕がユメちゃんと婚約してから一ヶ月後、ついにその時は来た。


 村の小さな教会で真新しいタキシードに身を包んだ僕は、心臓がバクバクと脈打つのを感じている。


 プーリーさんが手作りしたウェディングドレスに着替えてるユメちゃんを待ってるわけなんだけど、これがまたすごい緊張するんだ。


 この厳格な雰囲気といい、僕には全く未知の領域で。


 並々ならぬ緊張を胸に抱えてしばらく待っていると、ついにユメちゃんが両親と共に姿を現した。


「は……っ!」


 僕は純白のウェディングドレスで着飾ったユメちゃんに、目が釘付けになってしまう。


 半透明なヴェールを被り、やや細身なデザインで下に向けて広がる純白のドレスに身を包んだユメちゃんは紛れもなく美しい花嫁だった。


「どう、タスク? あたしこんなの似合わな……」

「きれい! すっごくきれいだよユメちゃん! 見違えたよ!!」

「そ、そう? それならいいんだけど……」


 僕の精一杯な感想に、ユメちゃんも頬をかいて照れ隠し。


 それから呼ばれた僕たちは、教会のヴァージンロードを一緒に連れ添って歩く。


 そこからはイメージ通りな結婚式の段取りで、いろいろと牧師さんからありがたい言葉をいただいてからついに式もクライマックスに。


「ユメちゃん、いくよ」

「う、うん」


 お互い顔を真っ赤にしながら、僕はユメちゃんの顔にかかってる純白のヴェールをめくり。


「それでは誓いのキスを」


 そして僕の伸ばした鼻先とユメちゃんの唇がくっついた途端、席から盛大な祝福の拍手が贈られたんだ。


 ――この日は永遠に忘れない、僕はそう信じている。

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