第26話 ショッピングデート
お風呂から上がったところで、僕たちは改めてこの象さんハウスに足りないものをリストアップすることにした。
「えーと、まずはベッドの布団とかシーツが欲しいよね」
寝室にはベッドの枠組みはあったけど、そこに敷く布団はなかったからね。
「それと調理器具とかそーゆー雑貨も必要じゃない?」
「それじゃあツーガルの町へ買いに行こっか」
「さんせーい!」
そこで僕はユメちゃんと一緒にいつもの町へと行くことにした。
「出ておいで、サクラ」
僕が鼻から吹き出したピンク色の豆粒が、みるみるうちに本物の象さんになっていく。
やっぱりいつ見ても不思議だな~。
「ぱおーん! 今日もがんばるぞう!」
「よろしくね、サクラ」
サクラがしゃがんだところで、僕はその前肢に足をかけて背中にあげてもらう。
そしてユメちゃんの手を握って引き上げると、サクラは再び立ち上がって高らかに声をあげた。
「出発ぱおーん!」
のっしのっしと歩き出すサクラに揺られて、僕たちはツーガルの町へ向かうことに。
「こうして二人きりなんて初めてだよねっ」
そう言いながらユメちゃんが背後から抱きついてくるものだから、僕は不意にドキッとしてしまう。
ユメちゃんの柔らかい胸が背中に当たる……!
「あーっ、タスクってばドキドキしちゃってる~?」
「そ、そんなこと……あるかも」
「あははっ、可愛いんだから~このこのっ」
うう、ユメちゃんにからかわれるのも照れ臭いのやら嬉しいのやら。
ドキドキと脈打つ鼓動をこらえながら僕たちが森の道を進むことしばらく、脇道から突然数匹のゴブリンが飛び出してきた。
「クキャキャキャ!」
「クキャキャフーッ!」
「なんだ、ゴブリンか。サクラ、適当に追い払っちゃって」
「任せてぞう! ぱおーん!!」
サクラが雄叫びをあげながら長い鼻を振り回して突進すると、ゴブリンたちが慌てて道を空ける。
「さすがサクラだね! よしよーし」
「えへへっ」
ユメちゃんに背中をパシパシ叩かれて、サクラも自慢げに鼻を高々とあげた。
「それじゃあこのまま町まで一気に行っちゃおう!」
「おー!」
「ぱおーん!」
この勢いのままサクラが進むことしばらく、僕たちはあっという間にツーガルの町にたどり着いたんだ。
「よう、デカい連れのお二人さん!」
「今日もここに来てくれてありがとな」
門番の二人も僕たちが顔馴染みになったのか、入り口も顔パスで通る。
「タスクの顔ってすごく目立つもんね~」
「そう、だよね。あはは……」
一番目立つのは身体が大きい象さんのサクラだと思うけど、それはあえて口に出さなかった。
ツーガルに入ったところでサクラを鼻の中に戻し、僕たちは町のあちこちでショッピングを楽しんだ。
さっきもユメちゃんが言ってたけど、なんだかデートみたいで楽しい。
ああ、愛する人と一緒にいるのがこんなにも幸せなことなんて。
ゲームくらいしか楽しみがなかった昔は想像もしなかったな~。
「どうしたの、タスク? なんかボーッとしちゃって」
「あ、ううん。なんでもないよ。ちょっと昔のこと思い出しただけ」
「ふーん」
意味ありげな反応をしたユメちゃん、彼女に僕のことを話す日は来るのだろうか。
雑貨屋や家具屋を巡って必要なものを取り揃えた頃にはお昼になっていたので、僕は通りかかったおしゃれなカフェにユメちゃんを誘う。
「ねえユメちゃん、あそこでお昼にしない?」
「え~、ああいうところはちょっと柄じゃないんだよね~。あたしってあんまりおしゃれじゃないし」
「そんなことないよユメちゃん! ユメちゃんはとってもおしゃれできれいだと思う!」
「全くもー、タスクったら嬉しいこと言ってくれるじゃん」
またまたユメちゃんに肘で小突かれたところで、僕たちはおしゃれなカフェに入った。
「いらっしゃいませ~、こちらの席へどうぞ」
フリフリの可愛い服を着たウエイトレスに案内された席に着く僕たちだけど、ユメちゃんはなぜかむすっとしている。
「……タスクってさ、あんなのが好みだったりする?」
「あ、ごめん。つい目移りしちゃってた。でも僕はそのままのユメちゃんが一番だよ。愛してるよ、ユメちゃん」
僕が手をぎゅっと握って目を見つめると、ユメちゃんも頬を赤らめた。
「ったく、言葉は達者なんだからさぁ」
「いやー、それほどでもないよ」
恋愛ゲーもそこそこ嗜んでおいて良かったよ……。
とりあえずこれでユメちゃんの機嫌も直ったかな。
しばらく待っていると、注文していた紅茶とパンケーキがウエイトレスさんの手で運ばれてくる。
「お待たせしました、こちらアップルティーと当店オリジナルパンケーキになります。ごゆっくりどうぞ」
運ばれてきたアップルティーは紅茶としての芳しい香りとリンゴの甘い香りの両方が漂ってきて、質素なパンケーキからは小麦とミルクの甘い香りが僕の空きっ腹をくすぐった。
「それじゃあいただきます」
僕がフォークとナイフでパンケーキを口に運ぶと、香り通りの素朴だけど甘~い味わいが口一杯に広がる。
「うん、美味しい!」
ついでに器用に動く鼻で掴んだティーカップからアップルティーを口に注ぐと、パンケーキの素朴な甘さとアップルティーの上品な甘さが溶け合って夢見心地になるようだ。
「ユメちゃん、どう? これすっごく美味しいよね」
「ええ! たまにはこーゆーのもありかもねっ。あんたのおかげで新しい味を知れたよ、ありがとっ」
そう告げたユメちゃんの笑顔は朗らかで、僕にとっては何よりも甘い心地にさせるものだった。
「――二人ともズルい」
「わわっ!? ……なんだスイートちゃんか、ビックリした~」
そこへむすーっとした顔で割り込んできたのは、冒険者仲間としてお世話になっているスイートちゃんである。
ちなみに彼女の手には甘ったるい香りの漂うティーカップが握られていた。
砂糖をたくさんいれたんだろうな、スイートちゃんは甘党なのかも。
「ちょっとスイート、いるならいるって言ってよ~」
「気づかないそっちが悪い」
ユメちゃんの言い分に反論しながらスイートちゃんはいつの間にか僕の胸元にすり寄っていた。
「ああ、やっぱりタスク様いい匂い~」
「あの~スイートちゃん?」
うっとりした顔で頭を胸元にすりすりされて、僕は戸惑いを隠せない。
そんな彼女をユメちゃんが強引に引き剥がす。
「スイートっ、あたしの旦那さんなんだからあんまりベタベタしないでよ!」
「……やっぱり結婚してた。ユメだけズルい」
「ズルいって、あんたね……」
相変わらずむすーっとした顔のスイートちゃんに、ユメちゃんは深いため息を着いた。
そんなこんなで腹ごしらえを終えたところで、僕たちはショッピングデートを引き続き楽しんだんだ。
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