ユメさんとの結婚
第24話 託された夢
「…………」
場面は変わって僕とユメさんはリビングのテーブルで、神妙な顔したテリーさんとプーリーさんと向かい合っていた。
うう……気まずい。この雰囲気じゃ迂闊に口を開けないよ……。
ちなみにリリちゃんとモモちゃんはこの場にいない。
それだけにユメさんの両親からの無言のプレッシャーが半端ではなかった。
気まずい沈黙を破るように、咳払いをしたのは大黒柱のテリーさん。
「ユメよ。父さんはどんな経緯かは知らないが、タスク君との婚約は本気なのか?」
「本気だよ、父さん。あたしはタスクに本気で惚れたの」
そう語るユメさんの目もまた、いつになく真剣なもので。
「そうは言うがユメ、タスク君はどう思っているか考えたのか?」
「もちろんだよ。タスクだってあたしのこと受け入れてくれたんだからっ」
そう言って僕に腕を絡ませるユメさんを見て、テリーさんは続いて僕に問いかける。
「それは本当か、タスク君?」
そう問うテリーさんの目力に気圧されてしまいそうになるけど、僕はしかと見つめ返して答えた。
「はい。僕もユメさんのことが好きです。ユメさんをくださいっ」
僕が深々と頭を下げると、プーリーさんと顔を見合わせたテリーさんが息をつく。
「どうやらお互い本気のようだな。タスク君、娘を頼んだぞ」
「はい、お義父さん!」
僕がそう返事すると、テリーさんは軽く微笑んだ。
「ユメよ、お前もタスク君の元で幸せになるんだぞ」
「もちろんだよ父さん!」
「――まさかユメがこんなにも早く嫁入りしてしまうなんて」
「泣かないで母さん、結婚したからって何か変わる訳じゃないからさっ」
すすり泣くプーリーさんをなだめるユメさん。
こうして僕はユメさんとの婚約を両親に認めてもらえることになったんだ。
緊迫の家族会議が終わったあと、僕は部屋のベッドで横になって天井を眺める。
「まさかこんなに早く結婚することになるなんてな~」
僕自身元の世界でもまだ社会人になったばかりだったし、この異世界に来てからまだ間もない。
正直言ってユメさんとの結婚はまだ実感が湧かなかった。
「僕がユメさんの旦那さん、か……」
そんなことを呟いていたら、扉をノックする音が耳に届く。
「どうぞ」
「お邪魔しますっ」
入ってきたのはリリちゃんだった。
「…………」
だけどリリちゃんも黙ったまま僕を見つめるばかり。
姉のユメさんと僕が結婚するなんて、リリちゃん的にも思うところがあるのかな……?
「……リリちゃん?」
「はっ、すみませんタスクさん! その……結婚おめでとうございますっ! どうか、お姉ちゃんを幸せにしてあげてください!」
ひたむきなリリちゃんの言葉で、僕ははっと気づかされる。
そうだ。これからは僕が旦那さんとして、ユメさんを幸せにしなくちゃなんだ。
「うん、ありがとうリリちゃん」
「は、はい……」
僕が頭を撫でてあげるけど、リリちゃんはどこか浮かない顔。
「お洋服なんですけど、……また今度でいいです」
「え、どうして?」
「だってお姉ちゃんとの結婚の準備があるじゃないですか。リリのことは気にしないで、タスクさんはお姉ちゃんのことに専念してください」
そう言うリリちゃんの顔だけど、やっぱり何か我慢してるように見えるんだよね。
とはいえそれが何かは分からないから、僕は彼女の言葉を素直に受け取ることにした。
「分かったよリリちゃん。ありがとね」
「は、はい……っ」
僕に笑顔を向けるリリちゃんだけど、スカートの裾をぎゅっとつまむのが僕の目に止まる。
本当にどうしたんだろう……? そのうち話してくれればいいんだけど。
ユメさんとの結婚に当たって、まずは二人だけのおうちを用意することにした。
ユメさんは必要ないって言ってたけど、僕も甲斐性を示したいんだ。
そんなことを伝えたら、ユメさんも苦笑しつつ納得してくれた。
というわけで僕は村の木こりさんたちと協力して、近くの山の木を伐採することに。
行ってみた現場を見たところ木材用に植林された山地のようだ、針葉樹っぽい同じ樹木が等間隔で植えられている。
木こりさんたちが木を斧で伐採するそばで、僕も斧を貸してもらって木を伐ってみることにした。
「そーれっと!」
僕が斧を振ると、木の幹が一撃でポッキリと折れてしまう。
「あ……っ」
「なんて馬鹿力なんだ……!」
あれ、ちょっと力を出しすぎちゃったかも?
結局場所だけ木こりさんに教えてもらう形で、僕が独りで木を伐る方が早かったのであった。
伐採した丸太はサクラとタンゴの力も借りて運搬する。
「それにしても変わった動物だなー」
「魔物でもなくてこんなデカいのは初めてだよ」
「えへへっ、わたしたちはおっきくて強いんだぞう~」
「木こりさんたちは別に誉めてるわけじゃないと思うパオ」
そうしてサクラとタンゴに空き地まで運んでもらった丸太を、僕はユメさんの前で披露する。
「これだけの丸太をこんなすぐに用意するなんて……!」
「愛する人のためだもん、僕も張り切っちゃったよ」
僕がちょっとかっこつけてみると、ユメさんは肘で小突いてきた。
「全くも~、言ってくれるねこのこの~っ」
「あはは、痛いってばユメさ~ん」
さてと、ここからが僕の腕の見せ所、初めて使うスキルの出番だぞう。
「ぞうさんビルド」
鼻をかざしてそう唱えると、不思議なことに丸太の数々が宙を浮いてクルクルと竜巻みたいに回転し始めた。
そしてボンッ!と煙が巻き起こった後に、そこに建っていたのは。
「……へ?」
デフォルメされた巨大な象さんが二頭伏せたような外観の、なんともコミカルな家だった。
「――ぷふっ、アハハハハ!!」
ああ、ユメさんが腹を抱えて笑い転げている。
僕としては立派なおうちを用意するはずだったのに、どうしてこうなった。
地に伏せて落ち込む僕に、ユメさんが肩を軽く叩いてこう言う。
「でもさタスク、こーゆー家もあんたらしくていいじゃんっ。あたしは好きだよ」
「ユメさん……!」
ユメさんの優しい慰めに感極まった僕は、彼女をむぎゅっと抱きしめた。
「んもー、タスクってばそんな強く抱きしめられたら痛いよ~!」
何はともあれ僕とユメさん二人だけのマイホーム、象さんハウスが誕生した瞬間だったんだ。
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