第23話 交わる愛

「ちょっと待ってよユメさん! 僕たちそういう関係だったっけ!?」


 うろたえる僕に、ユメさんは顔を寄せて答える。


「――言ったでしょ、あんたに惚れたって」


 そう告げたユメさんの瞳はとても真剣なもので、冗談を言ってるようには思えなかった。


「惚れたって言われても……」


 そんな彼女から僕は困惑気味に目をそらす。


「……あたしじゃイヤ?」


 しゅんとするユメさんに、僕はつい口走ってしまう。


「そんなことないよ! だってユメさんは家族思いで優しくて頼りになるし、その……身体だってきれいで僕にはとても魅力的に見える」

「それじゃあ……っ!」

「――でもそういうことは本当に好きな人とじゃなきゃやっちゃダメだと、僕は思うんだ」


 僕がそう伝えると、ユメさんは落胆ともとれる重い息をついた。


「それはつまり、タスクはあたしのこと好きでもなんでもないってことね。分かった、変なこと言ってごめんね」

「ユメさん……」


 あれ、ユメさんすごくガッカリしてる……?


 軽く作り笑いを浮かべるユメさんが部屋を出ようとしたところを、僕は思わずその手を掴む。


 ユメさんが懸命に気持ちを伝えてくれたんだ、それをむげにするなんて僕にはできない!


「待って! 僕もユメさんのこと好きだよ! ……本当に僕でいいの?」


 そう問いかけた途端、ユメさんが僕の胸元に飛び付いた。


 わわっ、薄いランジェリー越しにユメさんの胸が!


「もちろんだよ! てゆーかあたし、タスクしか考えられないし!」


 そう言うとユメさんは僕の顔に唇をつける。


「……ユメさん」

「なーに、タスク」

「僕の口じゃうまくキスできないから、その……鼻でもいい?」


 象の口は上唇が鼻と一体化しているから、人間的なキスは難しい。


「……どうぞ」


 だけどユメさんは頬を染めて顔を差し出してくれた。

 これがユメさんのキス待ち顔……!


 ぷくっとした唇が艶やかで、黒くてセクシーなランジェリーも相まって彼女の色気が天元突破していた。


「それじゃあっ」


 僕が鼻先をユメさんの唇に押し当てると、彼女はうっとりとしたような笑みを浮かべる。


「あたしの気持ち、通じたんだ……!」


 そうかと思えば僕はユメさんにふたたび押し倒されて……。



 翌朝僕が目を覚ますと、隣で裸のユメさんが寝息をたてている。


「ああ、僕も大人になっちゃったんだ」


 昨日の乱れた夜を思い出すだけで、僕は顔が燃えるように熱かった。


 服を着直してから気分転換に顔を洗いに行こうとしたら、扉を開けてすぐに腕組みをしたスイートが立っている。


「タスク様」

「どうしたの? スイートちゃん」

「昨夜はずいぶんと騒がしかった、何故?」

「いや、その……」


 ジト目のスイートちゃんに問い詰められた僕がはぐらかそうとするも、部屋の奥でユメさんが裸のまま起きた。


「んーっ、昨日は楽しかった~!」


 それを見たスイートちゃんは何かを察したようにジト目を向ける。


「……なるほど、昨日はそういう……」

「いや、昨日はそんなこと……してた。ごめん」


 土下座をする僕に、スイートちゃんは後ろ手を組んで微笑んだ。


「自分は気にしてない。むしろユメにふさわしい相手ができて嬉しい」

「スイートちゃん……!」


 そっか、これがスイートちゃんの仲間を想う心なんだ。


 ほんわかとした思いになったのもつかの間、スイートちゃんが僕の胸に顔を寄せる。


「でもそういうことなら自分も混ぜてほしかった。ユメだけずるい」

「そういう問題……?」


 それって道徳的にどうなのかな……?


 そんな疑問でユメさんに顔を向けると、彼女はウインクをして応える。

 え、それってどういう意味?


 そんなこんなで仕事を終えた僕たちは、リリちゃんたちが待つ村へ帰ることにしたんだ。


 幸いタンゴたちに乗っての帰り道は何事もなく進んで、予定どおりに村へ着く。


 ちなみにスイートちゃんは途中でツーガルの町で別れた。


 そしてリリちゃんたちの待つおうちの前までたどり着くと、早速モモちゃんが頭のサイドテールを振り乱して駆けつけてくる。


「タスクにーちゃん、おかえり~!」


 僕がタンゴから降りるなりモモちゃんが抱きついてきたから、こっちも頭をナデナデしてあげた。


「ただいま、モモちゃん」

「えへへ~」


 モモちゃんが満面の笑みを浮かべたところで、リリちゃんも少し遅れてやってくる。


「お帰りなさいタスクさん、お姉ちゃん」

「ただいま、リリちゃん」


 リリちゃんの頭も撫でてあげると、彼女はすぐに僕の胸にすり寄ってきた。


「……なかなか帰ってこないから心配したんですよ?」

「……ごめんね、リリちゃん。でもこれでリリちゃんの欲しいお洋服を買ってあげられるよ」

「リリのお洋服……それ本当ですか!?」


 目を星空のように輝かせて期待するリリちゃんに、僕はにっこり微笑む。


「うん、本当だよ。そのためにお仕事頑張ったからね」


 そう言うとリリちゃんが再び抱きついてきた。


「ありがとうございます! リリはとっても嬉しいです!」

「喜んでもらえて何よりだよ」


 この笑顔を見るだけで今まで頑張ってきたのが報われるようだよ。


「――コホン。お姉ちゃんからも一つ、お知らせがあります」

「え、なになにユメねーちゃん?」


 興味津々な目をするモモちゃんに、ユメさんはにんまりと笑みを浮かべる。


 あれ、このタイミングでユメさんの発言とは嫌な予感が……。


「この度お姉ちゃんはタスクのお嫁さんになろうと思います!」


「ほえっ?」

「へ……?」


 ユメさんの宣言で目を丸くするモモちゃんと、顔面蒼白で固まるリリちゃん。


 うわ、気まず……っ。なんでこのタイミングで爆弾発言を!?

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