第21話 怒涛の展開


 駆けつけ様に巨大なサソリをぶっ飛ばしたところで、僕は一緒に放り出されて落下するユメさんの身体を両腕で受け止める。


「大丈夫ですかユメさん!?」

「う、タスク……、どうして……」

「そりゃもちろん助けに来たんだ!」


 僕の腕の中で息もか細くなってるユメさんに、僕は危機感を覚えた。


 このままじゃユメさんが死んじゃう!


 彼女を地面に下ろした僕が癒しのはなシャワーを使おうとしたら、正面で巨大サソリが軋むような声をあげた。


「ギチョギチョオオオオオ!!」

「あいつがユメさんを……!」

「……キングスコーピオンは化け物、あたしはいいからタスクだけでも逃げて……!」


 弱々しく忠告を漏らすユメさんを安全な場所に運んでから、僕はキングスコーピオンとかいう巨大サソリと相対する。


「タスク……!?」

「こいつは僕が倒す!」


 ユメさんを痛めつけてくれたキングスコーピオンを、僕が許すわけもなかった。


「ギチョギチョ……!」


 手甲を鼻に装備した僕に対して、キングスコーピオンは巨大なハサミをカチカチと打ち鳴らして威圧してくる。


 十メートルはあるだろうか、そんな巨大なサソリは正直いって怖い。

 だけど引き下がるもんか!


【ぞうさんマスト発動】


 脳裏にそんなフレーズが浮かんだ直後、僕の身体が熱く熱される。


 こめかみ辺りにも何か液体みたいなのが伝うと同時に、僕の激情と闘争心は一気に頂点に達した。


「うおおおおお!!」


 駆け出した僕は一気にキングスコーピオンと距離を詰めて、拳を振りかぶる。


「ギチョギチョオオオオオ!!」


 キングスコーピオンが繰り出した巨大なハサミと僕の両腕がぶつかり合い、周囲に衝撃の余波が吹き荒れた。


「ギギギギ……!」


「ぐぬぬぬぬ……!」


 キングスコーピオンと力比べする僕。


 ふと頭上から尻尾の毒針が振り下ろされようとするのを感じ取った僕は、それを長い鼻で受け止めた。


「ギチョッ!?」


 自慢の毒針を防がれたキングスコーピオン、そのハサミに食い込むものを僕は見つける。


 あれはユメさんの短刀! ということは!


「うおりゃあ!!」


 雄叫びをあげながら鼻の手甲で短刀をぶっ叩くと、刺さってたそれがより深く食い込む。


「ギギチョオオオオオオ!?」


 これにはキングスコーピオンもたまらず後ずさった。


 この隙を逃さず僕は追撃を仕掛ける。


「はなショット!」


 鼻から乱射された土くれの弾丸が、キングスコーピオンの顔面に炸裂。


 怯んだキングスコーピオンのハサミを抱えた僕は、今度は豪快にぶん回した。


「うおおおおおお!!」


 ジャイアントスイングの要領でぶん投げると、キングスコーピオンの巨体が黄昏の空に舞う。


「ギギチョオオオオオオ……!」


 地面に叩きつけられてなおハサミと尻尾を振り上げようとするキングスコーピオンに歩み寄り、僕はトドメを刺しにかかる。


「ぞうさんプレス!」


 そう唱えるや否や飛び上がった僕は、ヒップドロップでキングスコーピオンを一思いにぶっ潰した。


「ぱおおおおおおおおおん!!」


 鼻高々に勝利の雄叫びをあげる僕。


「あ、あ……っ」


 ユメさんの絶え絶えな声で、僕は我に返った。


「ユメさん!」


 慌てて駆け寄った僕は、ユメさんにはなシャワーをかける。


「はなシャワー!」


 念じるなり鼻から注がれる生温かい水でユメさんの命を助けようとするけど、彼女の顔色は一向に良くならない。


「どうして……!?」


 はなシャワーが効かなくて目を白黒させる僕に、ユメさんが弱々しくこう伝えた。


「タスク……その水をあたしの口に注いで……」

「えっ!? うん、分かった!」


 開け放たれたユメさんの口腔に、僕ははなシャワーを注ぐ。


 するとユメさんの身体がぼんやり光ったかと思ったら、ユメさんの顔色もだんだんと良くなっていった。


「本当に治るなんて……!」

「――ユメさん!」


 上体を起こしたユメさんを、僕は抱き締める。


「良かった、本当に良かった……!」

「タスクのおかげだよ。助けてくれて、……ありがと」


 感謝を告げながら頬をほんのり染めるユメさんに、僕はドキッとしてしまってその身体を放した。


「それにしてもタスク、格好いいじゃん。あたし、あんたに惚れちゃったかも」


 ユメさんがそう言ったかと思ったら、不意に彼女の唇が僕の頬に触れる。


「……へ?」


 キョトンとする僕に、ユメさんは悪戯な笑みを浮かべていた。


「え、えええええええええ!?」


 どうしよう、初めて女の人にチューされちゃったよ!!


 高鳴る胸と共に、僕は呆然と黄昏の空を眺めたのであった。

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