第18話 破られる安寧
出発してから二日目の旅路も、特に危険もなく順調に進んでいる。
「それにしても平和ですね、ありがたい限りです」
のほほんとするマサラさんに、サクラは文字通り鼻高々にこう言った。
「えっへん! わたしたちにかかればどんな旅でも泥舟に乗った気でいられるぞう!」
「それを言うなら大船だパオ、お姉ちゃん」
「わ、分かってるぞう!?」
タンゴのツッコミでムキになるサクラに、一同はどっと笑い出す。
「まあ、こんなに何もないとちょっと張り合いないけどね。こんなんで銀貨十五枚ももらっちゃっていいのかなあ?」
「そういう依頼だから、何も問題はない」
「スイートちゃんの言うとおりだよ、ユメさん。これは幸運だと思わないとね」
「それもそうね」
そんなことを話しながら象さんの背中に揺られて進んでいると、僕たちはいつの間にか山道に入っていた。
「この山を越えればオーリンまですぐです」
「そっか。それじゃあさっさと越えちゃおっか!」
「そうだねユメさん。――タンゴたちもあと少し頑張れそう?」
「ぼくは大丈夫パオ」
「わたしもだぞう」
どうやらタンゴもサクラも問題はないみたい。
そうして僕たちは傾斜のある山道も、特に問題なく進んでいく。
それから程なくして、僕の大きな耳は誰かの悲鳴を捉えた。
「あっちだ!」
「はいパオ!」
「ちょっとタスク! ……行っちゃった」
ごめんなさいユメさん、でも誰か困ってる人がいたら放ってはおけない!
山道を外れてタンゴを急がせると、そこでおびただしい数のゴブリンが若い男女三人を襲ってるのを見かけた。
「このっ! 数が多すぎる!」
「これじゃあキリがないわ!」
「もう、限界です……!」
三人ともそれぞれの武器を振るって応戦してるけど、ゴブリンたちの数が尋常でなくてジリ貧になりかけている。
ここは僕が助けないと!
「すみませーん、どいてくださーい!」
タンゴを突っ込ませて僕が呼び掛けると、男女三人は驚愕で目を見開いた。
「な、何だ!?」
「とにかくっ、ここは道を開けましょう!」
どうやら三人とも意図を組んでくれたみたいで何よりだぞう。
「ぱおーーーん!!」
まずは巨体のタンゴを突撃させて、ゴブリンたちを一気に蹴散らした。
「クギャギャ!?」
「クギャーーーー!!」
長い鼻を振り回してのタンゴの突進に、ゴブリンたちがボーリングのピンみたいにまとめて吹っ飛ばされる。
「はなショット!」
僕がそう叫ぶなり鼻から石礫の弾丸が機関銃のように乱射して、取りこぼしのゴブリンたちを撃ち抜いた。
「クギャ~~!!」
これに恐れをなしたのか、残ったゴブリン数匹はたちまち逃げ出していく。
「「「あ……」」」
助けた男女三人は僕たちの無双っぷりに、ポカーンと口を開け放つばかり。
そんな彼らに僕はタンゴから降りて声をかける。
「皆さん大丈夫ですか?」
「あ、ああ。……おかげさまでな」
呆けたままそう答えるのは、三人の中でただ一人いる若い男の人。
ふと僕は苦痛にうめく女の人二人に目が行く。
「もしかして怪我してます?」
「え、ええ。さっきのゴブリンたちにやられてしまったわ……」
「ゴブリンに遅れを取るなんて不覚でした……」
「それじゃあ僕が手当てしましょうか。――はなシャワー」
僕が鼻から温かな水を浴びせると、二人の傷もみるみるうちに癒えていった。
「すごいわ、もう痛くない!」
「だけどすごいです。ゴブリンの大群を蹴散らしたかと思えば、私たちの怪我もこうして治してしまうなんて」
「いえいえ、僕は大したことなんてしてないよですよ。それじゃあ後は気をつけてください」
タンゴに乗り直した僕が踵を返そうとすると、若い男の人が呼び止める。
「待ってくれ!」
「ん、どうしました?」
「助けてくれて、本当に感謝する。だけど気を付けろよ、この山には何かヤバいのがいるっ」
そう伝えた男の人の顔はとても真剣なもので。
「情報ありがとうございます。それではお気をつけて」
そう告げて僕は改めてみんなのもとへ戻った。
元の場所へ戻るなり、両手をきゅっとくびれた腰に添えたユメさんがむすっと不機嫌そうにしている。
「もう! いきなりどこ行ってんのさ!」
「ごめんなさいユメさん。あっちでゴブリンの大群に襲われていた人たちがいたから、ちょっと助けに行ってたんだ」
「全く、一人でいくなんて無茶だよ! 道に迷ってたらどうするつもりだったのさ?」
「ごもっともです……」
ユメさんの説教にしゅんとうなだれてしまう僕は、改めてみんなとの足並みを揃えることの大切さを知った。
「ゴブリンの大群、……おかしい」
「どうしたの、スイートちゃん?」
「この辺りにゴブリンなんて大群を作るほど生息してないはず。いるとしてももっと山の上の方……」
それを聞いて僕はさっきの言葉を思い出す。
「そういえば助けた人がこの山に何かいるって言ってたけど、それのせいかなぁ?」
「それは重要な情報。よく持ってきてくれた」
ビッと親指をたてるスイートちゃんに、僕は自分の頭をさすった。
「いやー、たまたまだよっ」
「とにかく今後は気を付けて進みましょう。皆様もどうか怪我はなさらないように」
「はーい。でも面白くなってきそうだね」
「「ユメ(さん)……」」
何か期待しているユメさんに、僕とスイートちゃんは顔を見合せて肩をすくめる。
本当に何事もなければいいんだけど……。
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