護衛から始まる異世界の恋路

第15話 新たな依頼

 それからというもの、僕は朝から町へ通い続けていた。


 リリちゃんにお洋服を買ってあげるためにも、お仕事の数をこなそうと思ってね。


 もちろんパーティーメンバーのユメさんも一緒だよ。


 この日も水色象さんのタンゴに乗ろうとすると、家からリリちゃんが飛び出してきた。


「タスクさん!」

「どうしたのリリちゃん? こんな朝早くに」


 キョトンとする僕に、リリちゃんは胸元をぎゅっと握りしめる。


「それはこっちのセリフです! お姉ちゃんはともかく、タスクさんこそまた朝早くからお仕事なんですか!?」

「うん。どうしてもお金が必要だから……」


 そういってユメさんと顔を見合せる僕。


 リリちゃんを遠慮させないように、ユメさんとの話し合いであえてお洋服のことは黙ってることにしたんだ。


 そんな僕たちにリリちゃんは、うつむいてぼそぼそと呟く。


「そう、ですか……。ですけどっ、無茶だけは絶対しないでくださいよ!? もしタスクさんに何かあったら、リリは悲しくなってしまいます!!」

「リリちゃん……」


 ひたむきなリリちゃんの思いに、僕は胸を打たれるようだった。


 こんなに優しくて思いやりにあふれたリリちゃんを悲しませるわけにはいかないよね。


「うん、今日も仕事が終わったら必ずここに帰ってくるよ。約束する」


 そう伝えて僕が小指を差し出すと、リリちゃんもか細い小指を絡めてくれる。


 よく考えないでやったけど、異世界こっちにも指切りってあるんだね。


「約束、ですよ」

「うん、約束」


 リリちゃんと指切りをかわしたところで、僕は今日もユメさんと一緒に町へと出発した。


 タンゴの背中に揺られながら手をにぎにぎして思いに耽っていたら、サクラの背に乗るユメさんにこう諭される。


「いつも通りやればなんてことないよ。だからリラックスリラックス~」

「そうだね、ユメさん。いつも通り気負うことなんてないんだ」


 そう、今日もお仕事をしてから村に帰ればいい。


 自分に言い聞かせて僕は、町へと通じる森の道をタンゴの背中に揺られながら進んだ。


 町へ着くとギルドで待っていたのは、同じパーティーメンバーのスイートちゃん。


「お待たせスイートちゃん」

「ううん、待ってない。自分も今来たところ」


 頬を赤らめながら僕に向かい合うスイートちゃんに、ユメさんは苦笑する。


「あたしだけの時と全然態度違うじゃ~ん!」

「そんなことない」

「そんなことあるって~!」

「そんなことよりも依頼を見に行こうよ二人とも」


 押し問答を繰り広げるスイートちゃんとユメさんをなだめて、僕は依頼が貼り出されてる掲示板を覗いてみた。


 ユメさんとスイートちゃんからこの世界での読み書きを教わった甲斐あって、少しずつだけど依頼書を読み取れるようになってきたよ。


「ふんふん、どれも報酬がいまいちだな~」

「ねえタスク、これなんてどう?」


 ユメさんが差し出したのは、行商人を護衛する依頼が書かれたもの。


 報酬は銀貨十五枚、これだけでリリちゃんのお洋服に余裕で手が届く!


「よしっ、これにしよう!」

「待ってタスク様。この依頼はブロンズランク、ベーシックランクのタスク様には危険かも」


 スイートちゃんの忠告だけど、僕はそれほど大事だと思わなかった。


「大丈夫だよスイートちゃん。僕には君たちがいるわけだし、何より象さんパワーがある!」

「タスクってすごく強いもんね。あたしも心配してないよ」

「……そういうことなら、自分も異論なし」


 こうして僕たちは、行商人の護衛を引き受けることにしたんだ。


 ティアさんとの手続きを済ませたところで、僕たちは待ち合わせ場所の係留所へと足を運ぶ。


 そこで待っていたのは頭にターバンみたいな布を巻いた男の人だった。


「これはこれは初めまして、わたくしめは行商人のマサラと申します」

「あたしはユメ。こっちは仲間のスイートとタスク」


 ユメさんに紹介されると、行商人のマサラさんがいきなり僕の前でひざまずいて地面に頭を擦り付け始める。


「ちょっと、マサラさん!?」

「ああ、ありがたや~。まさか異郷の地でガネーサ様の生まれ変わりとご対面させていただくとは……!」

「もしかしてマサラさん、あんたもタスクみたいな顔を敬うくち?」


 呆れたようなユメさんの言葉で、マサラさんがバッ!と顔を上げて声を張り上げた。


「左様でございます! 我が故郷で知識と学問を司る神様、それこそがガネーサ様であられます。ガネーサ様と同じ象の顔をなされたタスク殿にお会いできたこと、誠に嬉しく思います!」

「「は、はあ」」


 マサラさんの引くほど強い信仰心に、僕とユメさんは顔を見合せて肩をすくめる。


「まさか象様の信仰が他の地にも伝わっていたとは。さすがは象様」


 ……なんかスイートちゃんも共感しちゃってるし。


 そんなこんなで僕たちはマサラさんの護衛を努めることに。


 マサラさんから聞いたんだけど、南方のデーツ王国からこの町ツーガルを経由してアップル王国各地に香辛料を売りにきたんだって。


 このツーガルから目的地の王都オーリンまでは馬車で三日程の旅路だというから、その間頑張らなくちゃ。


「出番だよ、サクラにタンゴっ」


 僕が鼻から出したサクラとタンゴを呼ぶと、マサラさんはまたしてもビックリ仰天。


「おお! まさか象もお連れだったとは! ありがたや~」

「何この人?」

「そんなこと言っちゃダメパオ、お姉ちゃん」


 手を擦り合わせるマサラさんに不審な目を向けるサクラをタンゴが咎める。


 いつもとは逆のパターンだから、これは目新しいぞう。


「それでは出発いたしましょう。皆様着いてきてください」

「はい!」

「りょーかいっ」

「おー」


 タンゴに僕、サクラにはユメさんとスイートちゃんが乗って、マサラさんに続く形でオーリンまでの道を進み出したんだ。

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