第14話 巨猿との対決
「ヌボオオオオオオオン!!」
僕たちを見るなり恐ろしげな咆哮をあげる、巨大オランウータン。
「ジャイアントエイプ……!」
「まさかこの辺りにこんなのが潜んでたなんてね!」
歯をギリリと噛み締めながら武器を構えるスイートちゃんとユメさんの二人。
サクラとタンゴを背丈で越えるあの巨大さと彼女たちの反応からして、目の前のジャイアントエイプは間違いなく強敵だ……!
「危ないからタンゴとサクラは下がってて」
「分かったぞう」
「了解パオ」
サクラとタンゴを下がらせた僕もにらみ合いに参加すると、先に仕掛けてきたのはジャイアントエイプ。
「ヌボオオオオオオオン!!」
「危ないっ!」
頭上から振り下ろされるジャイアントエイプの腕を、ユメさんとスイートちゃんは速やかに横へ飛び退いてかわす。
だけど僕にそんな機敏な動きは難しくて、豪腕の振り下ろしを受け止めざるを得なかった。
「タスク!」
ユメさんの声が届くと同時に、ジャイアントエイプの豪腕を振り下ろされた僕の身体にとてつもない衝撃が迸る。
ううっ、身体がビリビリする。
だけど立てなくなるほどじゃない!
「えーーーいっ、やあーーーっ!!」
目を丸くするジャイアントエイプの腕を、僕はありったけの力を込めて上に払いのけた。
「ヌボオ!?」
思わぬ動作に後退るジャイアントエイプに、ユメさんが突っ込む。
「ブースト!」
そう叫ぶや否や、ユメさんの動きが急加速してジャイアントエイプとの距離を一瞬で詰めた。
「はああああっ!」
そしてユメさんが両手の短刀を振りかざして、連続で斬撃を繰り出す。
「土よ放て、
背後でスイートちゃんも呪文みたいなのを唱えて、虚空から放った
すごい勢いだ、これが現役冒険者の立ち回り……!
「ヌボオオオオオオオン……!」
「ダメージが浅い」
「あの分厚い皮膚と毛皮だもん、このくらいの攻撃じゃびくともしない!」
だけどスイートちゃんとユメさんの言う通り、ジャイアントエイプを怯ませることはできても決定打には至らないみたいで。
「ヌボオオオオオオオン!!」
そうこうしてるうちにジャイアントエイプの咆哮の勢いで、僕たちは吹き飛ばされてしまった。
「うわあっ!」
「きゃあっ!?」
「ううっ」
森の地面を転げる僕たちに、ジャイアントエイプが大きく飛び上がってからこっちに向かって落下してくる。
まずいっ、こんな巨大なものが降りかかってきたらユメさんたちだってかわせない!
どうすれば……、そうだ! 僕にはぞうさんスキルがある!
「はなタイフーン!!」
僕が叫んだ次の瞬間、長い鼻から嵐みたいな突風が吹き出してジャイアントエイプの巨体を寸前で吹き飛ばした。
「ヌボオオオ!?」
軌道をずらされて地面に叩きつけられるジャイアントエイプに、僕は間髪いれずに追撃を仕掛ける。
「ぞうさんプレス!!」
叫ぶなり飛び上がった僕は、とてつもない地響きと共にジャイアントエイプをヒップドロップでぶっ潰した。
「はあっ、はあ……!」
肩を上げ下げして息を荒げる僕の目前で、ジャイアントエイプはその巨体を横たえたまま動かなくなっていた。
「す、すごい……あんなデカい魔物を一撃で……!」
「さすがは象様……」
口をあんぐりと開けるユメさんと手を組み合わせて恍惚とした表情を浮かべるスイートちゃんの前で、僕はペタンと腰を落とす。
「こ、これが僕の力……」
目の前で手をニギニギする僕は、自分の有り余るパワーに実感がわかない。
そんなことを気にしている間に、ユメさんたちは仕留めた巨大なジャイアントエイプを解体していた。
「確かこいつの脳みそが高級食材として高く売れるんだっけ?」
「ジャイアントエイプの脳は珍味として一部で人気が高い」
……会話から察するに、今ユメさんたちの方は見ないほうが良さそうだね。
しばらくして彼女たちが解体が終わったのを見計らって、僕はスキルはなポケットでジャイアントエイプの素材を収納した。
「えっ、ちょ!?」
「素材がタスク様のお鼻に吸い込まれた」
「安心して、これは収納スキルだからいつでも取り出せるよ」
僕が説明するとユメさんは肩をすくめる。
「タスクってホント規格外だよね……」
それから僕たちは町のギルドへ戻ることにした。
採取した薬草とその他素材をギルドに提出すると、ティアさんが目を丸くする。
「薬草だけでなく上等な素材も持ち帰ってくるとは思いませんでしたよ!」
「へへっ、まあね」
「自分達にかかればこのくらい余裕」
得意げなユメさんとスイートちゃんは、続いてこんなことを報告した。
「だけど一番活躍したのはタスクだよね」
「え、僕?」
「薬草を探したのもジャイアントエイプを仕留めたのも、タスク様の力があってこそ」
うーん、そんな大したことしたつもりはないんだけどな……。
「それでは依頼達成ですね。皆様お疲れ様でした、こちら素材も併せた報酬になりますね」
そういったティアさんから、何かで満たされた布袋を僕たち三人に一つずつ手渡される。
中には銅貨が五十枚入っていた。
「初めてにしては結構稼いだじゃん、タスクっ」
「え、そうなの? 僕この辺りの貨幣価値も知らないから……」
「あちゃー、それもか~。分かった、今教えてあげる」
ユメさんが教えてくれたこの世界の貨幣は以下の通り。
一番普遍的にして価値の低い銭貨、これ一枚を一円換算と考える。
銭貨百枚分の価値がある銅貨は一枚百円で、つまり今もらった銅貨五十枚は五千円と同じくらいの価値ということになる。
そして銅貨百枚で銀貨(一枚一万円分)で、銀貨百枚の金貨(一枚百万円分)ともなると一般的にはなかなかお目にかかれないのだという。
そのさらに上の通貨として大金貨なるものがあるっていうけど、これはユメさんでさえ見たことがないくらい希少な貨幣なんだって。
「ねえユメさん、昨日見た空色のドレスっていくらだったっけ?」
「ざっと銀貨五枚ね」
銀貨五枚かぁ、今の報酬の十倍……。
「よーしっ、これからもお仕事頑張るぞう!」
こうしてリリちゃんのために、僕は改めてお金稼ぎに奮起することとなったんだ。
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