第13話 沼地の王
僕を乗せたタンゴとユメさんたちを乗せたサクラが、ゆっくりと泥沼へ足を踏み入れていく。
「ううっ、気持ち悪いパオ……」
「文句言わないんだぞう!」
「あたっ! 痛いパオ、お姉ちゃん!」
泥のぬかるみに難色を示したタンゴの尻を、サクラが鼻でひっぱたいた。
あひゃー、やっぱりサクラはタンゴに対して強引だな~。
「ところでユメさん、その薬草はどんな匂いパオ?」
「ごめん、あたしたちもさすがに匂いは分からないかな……」
「でも見本図ならある。これをどうぞ、青い象様」
スイートちゃんが見せた図には、花が開いたような形の草が描かれている。
「とりあえず
そう言うとタンゴは泥沼に長い鼻を突っ込んで、底を探り始めた。
同じ象の顔した僕も分かるけど、この長い鼻ってかなり敏感だからね。
サクラも協力してくれてるし、少し待てば目当ての薬草も見つかるでしょ。
そんな二頭に僕が傍観を決め込もうとしたその時だった、サクラが突然驚いて体制を崩した。
「きゃあっ!?」
サクラが急に身体を大きく揺さぶったものだから、ユメさんとスイートちゃんがその背中から振り落とされてしまう。
「ちょっ!?」
「おわっ」
放り出された二人は、そのまま泥沼へと落下。
「ちょっと~! いきなりどうしたのさぁ!!」
「ひゃわわわ~! これ取って~~~!!」
泥まみれになってしまったユメさんとスイートちゃんをそっちのけで、サクラは鼻をめちゃくちゃに振り乱している。
よく見ると鼻の先っぽに二メートルくらいありそうなサンショウウオの親分みたいなのが噛みついていた。
「あれはマッドキング。沼地の頂点に位置する生き物」
「そんなこと冷静に解説してる場合!? ――とにかくサクラを助けるよ!」
サクラを助けにユメさんたちが歩き出すも、深いぬかるみに下半身が埋もれてうまく進めないみたいで。
「あーもう! これだから泥は嫌いなの!!」
「泥んこで最悪」
「――僕たちが行こう、タンゴ」
「了解パオ!」
ぬかるみを物ともせず進めるタンゴに乗って、僕はがむしゃらに暴れるサクラの元へ向かった。
「マスター! これなんとかしてほしいぞう!!」
「分かったからそんなに暴れないで、落ち着いて!」
そう言い聞かせたところで、僕はサクラの鼻先に噛みつくマッドキングを抱え込もうとする。
だけどマッドキングの身体がぬるぬるしててうまく掴めない。
「うっ、このっ!」
こうなったら!
僕は取り出したナイフを鼻先で掴んで、マッドキングの脳天を突く。
「グゲェ!」
汚い断末魔をあげたマッドキングは、今までのジタバタぶりがウソのように動きを止めた。
「これでよしっ」
「マスター、助かったぞう……」
「それよりも、ユメさんたちに言うことがあるでしょ」
腰に両手を添えて僕が諭すと、サクラはユメさんたちに向き直って頭を下げる。
「ユメさんにスイートちゃん、振り落としてしまってごめんなさいぞう」
真摯に謝るサクラを、ユメさんたちは快く許してくれた。
「分かったよ、今回は許してあげる。でも今後はこんなことがないように、ね」
「えへへ、もちろんだぞう!」
薬草探しを再開する前に、サクラは背中に乗せたユメさんとスイートちゃんを岸に戻す。
「ありがとう、サクラ」
そう言うなりユメさんが着替え始めたものだから、僕は慌ててそっぽを向いた。
一瞬だけどユメさんのブラ見ちゃったよ……。
黒くて布面積が小さいものだから、脳裏に焼きついて離れない。
「そんなことよりっ、早く薬草を探そう!」
「は、はいパオっ」
ユメさんの下着姿を頭から振り払うべく、僕はタンゴと一緒に沼を探索する。
「どうしましたパオ? なんか落ち着かないみたいパオ」
「いいかいタンゴ、絶対ユメさんたちの方向いちゃダメだからね」
「は、はいパオ」
そして薬草を見つける頃に岸へ戻ると、ユメさんたちは汚れてない服に着替え終わった後だった。
「薬草見つけてくれたんだ! ……どうしたのさタスク、顔真っ赤だよ?」
「なんかすいません、ユメさん」
きょとんとするユメさんを、僕は直視できずにいる。
このナイスバディーであんなセクシーな下着を履いてるなんて、ねぇ……。
ちょっとしたアクシデントはあったものの、僕たちは薬草をギルドへ持ち帰ることに。
ちなみにさっき仕留めたマッドキングも、ユメさんがついでに解体して持ち帰ることにしたみたいで。
「マッドキングの皮って、結構いろんなものに使えるみたいでいい値段になるんだよね~」
剥ぎ取ったマッドキングの皮に頬擦りをするユメさんに、スイートちゃんがドン引きしてる様子。
分かるよスイートちゃん、あんなぬめぬめしたものを頬擦りって絶対気色悪いよね。
沼地から離れたところで、タンゴとサクラが急に足を止める。
「何かいるぞう」
サクラの言う通り、この辺りに嗅ぎ慣れない匂いを微かに感じた。
ユメさんとスイートちゃんも気配に感づいてるのか、それぞれ短刀二つと木の杖を構えている。
全員で警戒の糸を張っていると、森の茂みからおもむろに姿を現したのは見上げるほど巨大なオランウータンのような生物だった。
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