第12話 二頭の象さんと沼地へ

 今回ユメさんとスイートちゃんが選んでくれたのは、沼地に生えるという薬草を採取する依頼だった。


 彼女たち二人のおかげで依頼の受注はそつなく進んで、僕も助かったよ。


「二人ともありがとう」

「いいっていいって、タスクはまだ読み書きができないっていうんだからさ」


 ギルドを出たところでユメさんと会話してたら、スイートちゃんがこんなことを言い出した。


「それなら自分が教える。ユメよりもうまく教えられる自信がある」

「え、いいの!? ありがとうスイートちゃん!」

「タスク様のためならこのくらい当然」


 ほんのり膨らんだ胸を張りながら誇るスイートちゃんに、ユメさんは肩をすくめる。


「全く、スイートったらいつになく積極的なんだから」


 そうこうしているうちに僕たちは町を出て、森の中にある沼地を目指すことにした。


「それじゃあ出ておいでサクラ、タンゴ」 


 僕がそう唱えながら鼻息を吹くと、吹き出した豆粒二つがそれぞれピンク色の象サクラと水色の象タンゴになる。


「「ぱおーん!」」


「ぞ、象様が増えた……」


 出てくるなり声をあげるサクラとタンゴに、スイートちゃんは手を組み合わせてくりくりの目をキラキラと輝かせた。


 もしかして本物の象さんも信仰の対象だったり?


「あ、あのっ。女の子が二人……」


 ユメさんとスイートちゃんの二人を見て挙動不審になるタンゴを、僕は撫でて言い聞かせた。


「大丈夫だよタンゴ、あの二人はサクラに乗せるから」

「それならいいけどパオ……」


 やっぱり女の子が苦手なんだね、タンゴは……。


「それじゃあ二人はサクラに乗って」


 僕がタンゴに乗ってそう頼んだけど、ユメさんは戸惑ってる様子。


「だけどあたしたち、こんな大きな動物の操りかたなんて分からないよ?」

「それなら問題ないぞう! わたしたちは言葉が分かるから、普通に口で指示を出してくれれば従うぞう」


 サクラがそう言うと、ユメさんはにっと歯を見せて納得してくれた。


「それなら助かるよ。頼りにしてるね、サクラ」

「任せてぞう!」


 長い鼻をあげて了承するサクラに、ユメさんとスイートちゃんが一気に背中に飛び乗る。


 二メートル以上はあるサクラの背中に助走なしで飛び乗るなんて、二人ともさすがの身体能力だ。


「サクラ、目的地の沼地まであたしが指示を出すからね」

「了解だぞう!」


 サクラの準備ができたところで、僕はタンゴの背中で掛け声をかける。


「それじゃあ出発進行!」

「おー!」

「おー」

「「ぱおーん!」」


 こうして森の沼地へと出発した僕たちは、二頭の象さんの背中に揺られて平原の街道を行く。


「揺れるけどそれもまたありがたやありがたや」


 スイートちゃん、象の揺れまでありがたがってるよ。


「ユメさんは揺れとか大丈夫?」

「このくらいなら平気だよ。普段はもっと激しく動くこともあるからさ」


 僕の問いかけにユメさんはあっけらかんと答えた。


 そんな激しく動くことなんて、どんな活動なんだろう……?


 開けた街道から森に入ると、視界が一気に変化した。


 差し込む木漏れ日とさわさわ揺れる木の葉の音が、なんとも心地いい。


 こんなこと思うなんて、僕の心まで象さんになってきているのかな……。


「ん~、この葉っぱは美味しいぞう~」

「お姉ちゃん、こっちの木の葉の方が美味しそうパオ!」


 それはサクラとタンゴも同じみたいで、時折木の葉を枝ごともいでは口に運んで舌鼓を打っている。


 森の中の仲良し象さん、これはこれで絵になるよね。


「……道草を食ってばかりいないでよ?」

「え~っ。食べ歩きも旅の醍醐味なんだぞう~!」

「ユメ、象様の食事を邪魔するの良くない」

「それは分かるけどさー、このペースじゃ目的地に着くのいつになると思ってる?」


 ……文字通り道草食ってるサクラの歩くペースが遅くなってるから、僕からもちょっと急ぐよう頼もうか。


「サクラ、食事もいいけど僕たちには用事があるんだからね?」

「分かってるぞう~」

「ホントに分かってるパオ? お姉ちゃん……」

「タンゴはほどほどにしてて偉いね」

「えへへっ、当然パオ」


 僕がタンゴの頭を撫でてやると、道草食ってたサクラが一転してムスーっとする。


「それじゃあわたしも道草やめるぞうっ! ふんっ」


 ……どことなく不機嫌みたいだけど、まあこれでペースが戻るならいっか。


 ゆったり歩く象さん二頭に乗って進むことしばらく、僕たちは目当ての沼地にやってきた。


「ここが目的地なんだね」

「そっ。とはいってもこんな泥沼じゃ服が汚れるからちょっとね……」


 ユメさんが眉を潜めるのも無理ない、目の前の沼はお世辞にもきれいとは言えない泥沼なんである。


 しかもここである薬草の種類を探し当てなきゃだから、なかなか大変そうだ。


「ぼくたちが探すパオ?」

「そうだね、お願いしようかな」


 タンゴの背かに乗ってれば泥で汚れる心配もないね。


「わたしもお手伝いするぞう!」


 サクラも鼻をあげて立候補してくれたので、僕は快諾した。


「ありがとうサクラ、よろしく頼むよ」

「任せてほしいぞう!」


 こうして僕たちは二頭の象さんに乗って沼地へと分け入ることにしたんだ。

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