第11話 ドワーフと獣人と

「そうと決まれば冒険者としての必需品を揃えなくちゃね。えーと、薬と最低限の携帯食料はあたしと共有でいいから、あとは武器があればいいかな。タスクはどんな武器が得意かってある?」

「それが武器なんて握ったこともないんだ……」

「え、そうなの!?」


 僕が指を突き合わせてトボトボそう言ったら、ユメさんに大変驚かれた。


「だから自分にどんな武器が合うかなんて分からないから、これもユメさんに見てもらおうかなって」

「分かった、そういうことならあたしも付き合うよ」

「ありがとう、ユメさん!」


 こうして僕はユメさんに連れられて町の鍛冶屋に連れてってもらうことに。


「ここが鍛冶屋ボルケーノだよ」

「鍛冶屋ボルケーノ……」


 なんだろう、看板に描かれた火山が今にも噴火しそうな迫力だよ……。


 ユメさんに続いてお店に入ると、小柄な髭面の男が奥で鉄を打っていた。

 髭面に小柄な男って、もしかしてドワーフ?


「おう、ユメか。いらっしゃい」

「ヘッパーさんどーも」


 見た目に寄らず気さくなヘッパーと呼ばれた髭面小男に、ユメさんもフランクに返事した。


「今日は連れに武器を選んで欲しいんだけど」


 ユメさんが親指で僕を差し示すと、ヘッパーさんが改まったように自己紹介をする。


「これはこれは。ここで鍛冶屋を営んでいるドワーフのヘパイストスとはワシのことだ。気軽にヘッパーとでも呼んでくれ」


 やっぱりドワーフだった!


 ……そういえばヘパイストスってギリシャ神話で火山と鍛治の神様だっけ、この人にはピッタリな名前かも。


「あのっ、ヘッパーさん! 僕、武器なんて初めてなんですけど、それでも扱えそうな武器ってありますかね?」

「うーむ、お前さんの体格からすれば並の武器はあらかた扱えそうだがな。しかしその鼻は非常に筋肉質だ、これを活かさない手はないだろう」


 そういってヘッパーさんは僕の鼻をペシペシと触る。


「どれ、これがよかろう」


 それからヘッパーさんが渡したのは、ゴツゴツとした手甲みたいなものだった。


「変わった武器だね」

「ユメさんもそう思うよね」

「それを鼻につけてみぃ、きっといい武器になるぞ」


 ガハハと豪快に笑うヘッパーさんの前で、僕は手甲を鼻に装備してみる。


「ふんふん、悪くないね」

「どれ、そいつを安くで売ってやろう。実はそれ片方なくしてしまっていてな、一つだけで扱えるお前さんに売りたいんだ」

「助かるよヘッパーさん」


 ユメさんが銅貨十枚で支払ったことで、この鼻手甲は僕の物になった。


 ついでに冒険で何かと役に立つという小振りなナイフも、ユメさんは僕に買ってくれた。


「何から何まですみません……。僕も頑張って稼ぎますから」

「気にすることないって。これは先行投資だし、家族の恩人のあんたにはこれでも安いくらいだからさ」


 ニカッと笑うユメさんに、僕はなおのこと頑張ろうとやる気を胸の内で燃やす。


 そういえばヘッパーさんも僕の顔について何も言わなかったな。


 案外この顔でも普通なのかも?


 続いて僕たちは昨日も足を運んだギルドに向かった。


 ユメさんが扉を開けて入るのに続くと、待合の席で足を組んで待っている女の子がいる。


 ユメさんと比べてだいぶ小柄で、魔女が被るようなとんがり帽子からのぞく三角形の大きな耳と、ふさふさの長い尻尾が目についた。


 前髪から頭の中央にかけてだけ黒みがかった銀色の長い髪を三つ編みに結び、おしゃれなメガネの向こうからのぞくジト目がちな黒目はくりくりで可愛らしい。


 身なりも緑色のローブをまとっていて、いかにも魔法使いって感じの見た目だった。


 これはもしや、ケモ耳魔法使い!?


「遅い。どこで油を売ってた」

「ごめんごめん、ちょっと連れに買い物してやっててさ」


 淡々と文句を垂れるケモ耳の女の子に、ユメさんは平謝り。


「なんかすみません……」


 僕もペコペコと頭を下げたら、その女の子が急に僕の胸に抱きついてきた。


「え、ええっ!?」

「ああ、象様……」


 目を丸くするユメさんのそばで、ケモ耳女の子は僕の胸元にすりすりと顔を擦り付けている。


 あの、僕何かしました? 初対面の女の子にこんなことされる覚えはないけど……。


 目を白黒させていたら、ユメさんがケモ耳女の子を引き剥がす。


「こらこらスイート、いきなりそんなことするからタスクが困ってるよ」

「はっ、これは失礼。申し遅れました、自分はスイート。フクモモ族の獣人でユメのパーティーメンバー」


 この娘がユメさんのパーティーメンバーか。


 ん、フクモモって近頃ペットとしても人気だったフクロモモンガのことだよね?


 いわれてみれば確かに似てるかも。


「僕はタスクだよ。これから君と同じパーティーメンバーになると思うからよろしくね」


 僕が手を差し出すと、スイートちゃんはくりくりの黒目からじーん……と涙を流して握手をしてくれた。


「聖なる象様と仲間になれて、自分感無量……」

「……やれやれ、普段はこんな子じゃないんだけどねっ」


 肩をすくめるユメさんの物言いから察するに、スイートちゃんのこんな姿は初めてっぽい。


「ところでスイートちゃん、象様って一体?」

「象様は全ての獣人の祖神に当たる、ありがたい存在。タスク様はきっと象様の生まれ変わり。ああ、ありがたやありがたや」


 ああ、象がそういう信仰対象になってるのね。

 僕の知るアジア圏でも象が神聖な存在として崇められていたっけ。


 そんなことを考察していたら、ユメさんが手をパンパンと叩いた。


「茶番はそのくらいにしてさ、今日の依頼を探しに行こっ」

「……それもそう。タスク様、自分たちに任せて」


 そうしてスイートちゃんも仲間に加えたところで、僕たちはいよいよ依頼を探すことにしたんだ。

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