第10話 異世界ライフ三日目

 リリちゃんたちの家に帰ると、早速モモちゃんがサイドテールを元気に揺らして出迎えてくれた。


「おかえりタスクにーちゃん!」

「ただいま、モモちゃん」


 胸元にすり寄るモモちゃんの頭を、僕は優しく撫でてあげる。


 モモちゃんも無邪気で可愛いよね、ついナデナデしてあげたくなっちゃうよ。


「…………」


 リリちゃんが物欲しそうにこっちをチラチラと見てるけど、何だろう?


「どうしたのリリちゃん?」

「はっ! いいえ、なんでもないですっ」


 桃色のツインテールを振り乱して首を横に振るとリリちゃんはそそくさとおうちに入ってしまった。


「何だったんだろう……、ユメさんは分かる?」

「さあね~」


 あからさまに知らないふりをするユメさんも家に入ったので、僕もそれに続いて屋内に入る。


 もちろんサクラも豆粒大に戻して鼻の穴にしまったよ。


 僕の鼻の穴がいいと本人(本象?)たちが希望したんだ。



 翌朝僕はテリーさんとプーリーさんの畑仕事を手伝うことに。


 今回は畑を耕す力仕事。


「タスク君が手伝ってくれて助かるよ」

「タスクさんって、本当に力持ちなのね~」


 テキパキと畑作業をこなす僕に、テリーさんとプーリーさんが称賛をくれた。


「いえいえ、これくらい何ともないですよ。住まわせてもらってるんですから、これくらいは任せてください」


 僕のぞうさんパワーがあれば力仕事もへっちゃらだし、象の鼻も思いの外パワフルかつ器用に動くから第三の腕として活用できる。


 畑を耕すついでに種まきも終わらせたところで、僕の元にリリちゃんとモモちゃんが駆け寄ってきた。


「タスクさ~ん!」

「タスクにーちゃーん!」

「あ、リリちゃんにモモちゃん」

「お疲れ様です、タスクさん。……あのっ、リリもサンドイッチを作ってみたんですけど食べてくれますか?」


 そう言って差し出した小さなバスケットには、バケットタイプのサンドイッチが収まっている。


 ちょっとだけ形は崩れているけど、みずみずしい野菜の香りがして美味しそうだ。


「ありがとう、リリちゃん。いただきます」


 手を合わせた僕は、リリちゃんのサンドイッチを手と鼻で持って口に運ぶ。


「き、器用なお鼻ですね~」

「うん、美味しい! これすっごく美味しいよリリちゃん!」


 漂う香り通りみずみずしい野菜にハムの塩気が合わさって、僕も大満足だ。


「良かったです~。リリはちょっと自信がなかったんですけど……」

「気にすることないよリリちゃん。ちゃんと美味しくできてるから」


 そう伝えながら頭を撫でてあげると、リリちゃんは満面の笑みを浮かべる。


「はい! ありがとうございます、タスクさん!」


 その笑顔はほんのり頬が染まっていて、それもまたリリちゃんの純粋無垢な可愛さを引き立たせていた。


 今ついリリちゃんの頭をナデナデしちゃったけど、本人が嫌がってないから気にすることないよね。


「モモもちょっとだけてつだったんだよ! えらいでしょ~」

「そうだね、モモちゃんも偉い偉い」

「へへっ」


 自慢げなモモちゃんの頭もナデナデしてあげる。


 こうしてのんびりと畑仕事をするのもいいものだ。


 畑仕事が終わったところで、僕はユメさんと一緒に町へ行くことに。


 せっかく冒険者になったんだから、服を取りに行きがてらギルドで適当な依頼を見つけてこようって話。


 今回は水色象さんのタンゴに乗ってユメさんの馬と並び歩くこと少し、僕たちは昨日も来た町に到着した。


 今回は僕も身分証明になるギルド証があったから、町にはすんなり入ることができた。


 ……門番は相変わらず僕のことを怪しむ目で見てたけど。


 係留所に馬を置いてタンゴを鼻の穴にしまった僕たちは、その足でまず昨日の洋服屋さんへ行く。


「いらっしゃい。お洋服はできてるわよ」


 メイクさんが差し出してくれた新しい服を、僕は早速着てみた。


 黒いチョッキとベージュのブラウス、それからグレーのハーフパンツ。

 どれもかなり大きめに作ってくれたみたいで、今の僕にはピッタリだった。


「どうかしら?」

「はい、とっても着心地がいいです! ……ユメさん、似合ってるかな?」

「うん、よく似合ってると思うよ」


 親指を立てるユメさんの評価に、僕もほっこりとした心地になる。


 これでもう半裸で過ごさなくてよくなったから、これで一安心。


 服をありがたく頂いたところで、僕はユメさんと一緒にギルドへ足を運んだ。


 ギルドの建物へ入ろうとしたら、ユメさんがこんな提案を。


「ねえタスク、あんたさえよければあたしとパーティー組まない? そうした方がタスクも多く稼げると思う」

「え、いいの?」


 突然の提案に目を丸くする僕に、ユメさんはにっと笑ってこう告げた。


「むしろこっちからお願いしたいくらいだよ。リリから聞いたけど、鼻も利くうえ熊を素手で倒すくらい強いんだって? そんなあんたがパーティーに加わってくれたら、こっちだって大助かりだよ!」


 そう言ってユメさんが差し出した手を、僕はぎゅっと握る。


「そういうことならよろしく頼むよ」

「決まりだねっ」


 こうしてなし崩し的に僕はユメさんとパーティーを組んで、これから冒険者として活動することになったんだ。

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