第9話 二頭目の象さん

 冒険者登録を終えたところで、僕とユメさんは待たせていたテリーさんとリリちゃんの二人と合流した。


「タスクさん! 冒険者登録はできましたか……?」


 そう問いかけて上目使いなリリちゃん、可愛すぎる!


「あ、うん。それなら問題なく済んだよ」

「本当ですか!? よかったです!」

「よかったなタスク君、これからは冒険者としての活躍も期待してるよ」


 自分のことのように喜んでくれるリリちゃんと、僕を期待してくれるテリーさんに、僕はなんだか嬉しくなってしまう。


 期待されるってこんなに誇らしいことなんだ、初めて知ったよ。


 そうかと思えばリリちゃんが不安げな目で僕を見る。


「だけど冒険者ってことは危険なこともやるんですよね? リリは少し心配です……」


 心配してくれるリリちゃんの頭を、僕は優しく言い聞かせてあげた。


「大丈夫だよリリちゃん。多分危険なことは当分やらないし、それに僕は強いから」


 そう、冒険者になりたての僕はまだ簡単な依頼しか受けられない。

 そうでなくても僕にはぞうさんパワーがある!


「えへへ、それなら安心です」


 にっこり微笑むリリちゃんに、僕はユメさん共々心がほっこりした。


「それじゃあひとまず帰ろっか」

「そうだな、ユメ。タスク君もそれでいいね?」

「はい、僕は構いません」


 こうして僕たちは再び村へ帰ることに。


 もう一度サクラを呼ぼうとすると、今度は鼻から豆粒が二つ出てくる。


 一つはピンク色だからサクラだとして、もう一つの水色の豆粒は一体?


 そんなことを疑問に感じていたら、ピンク色の豆粒に続いて水色の豆粒もみるみるうちに大きな象の姿になった。


「ぱおーん!」

「ぱ、ぱおーん……」


 サクラの隣で控えめに声をあげる水色の象は、頭に緑色のキャスケット帽みたいなのを被っている。


 その上サクラちゃんと違って牙が口から伸びてるから、雄もとい男の子なのかも。


「はわわっ、大きいのが二頭になりました!」


 二頭出てきた象さんに、リリちゃんも目を丸くする。


 そこで僕は水色の象さんにも質問をしてみた。


「もしかして君も僕の眷属だったりする?」

「あ、はいパオ! その……」


 なぜかモジモジする水色の象さんに、ピンク象さんのサクラが鼻で叩く。


「ほら、そんなオドオドすることないぞう! ちゃんと挨拶するぞう!」

「は、はいお姉ちゃん!」


 お姉ちゃんってことは、この象さんはサクラちゃんの弟……?


「ぼ、ぼくもマスターの眷属……パオ。どうかぼくにも名前をつけてくださいパオ」


 そう言ってペコリとお辞儀する水色象さん。


 ずいぶんと礼儀正しい男の子だなあ、でもそんな物怖じしなくてもいいのに。


「ん~」


 お姉ちゃんの方にはサクラって名前をつけたから春繋がりで……そうだ、あれがいい。


「タンゴ、君の名前はタンゴだ。いいかな?」

「タンゴ……はい、嬉しいパオ!」


 桜の次は五月の子供の日もとい端午の節句ってね。


 でも気に入ってもらえたみたいで良かったよ。


「それにしてもタンゴくんも可愛いです~」

「はわわっ!?」


 リリちゃんに鼻を撫でられたタンゴは、途端に顔を真っ赤にして倒れてしまう。


「ふええっ!? 大丈夫ですか~!?」

「弟は恥ずかしがりやで、女の子に触られるだけでこうなっちゃうんだぞう……」


 ジト目のサクラの説明に、僕は納得がいった。


 だからああなっちゃうんだね……。


 倒れたタンゴが豆粒に戻ってしまったので、僕はサクラに乗せてもらうことにした。


 ふとリリちゃんが何か羨ましそうな目をしている。


「どうしたのリリちゃん?」

「あ、あのっ。リリも乗せてくれるでしょうか?」

「僕はいいけど、サクラはどう?」

「お安いご用だぞう!」

「え、いいんですか?」


 遠慮がちなリリちゃんに、サクラは鼻を曲げるように上げて応えた。


「もちろんだぞう!」

「ありがとうございます! それではお言葉に甘えて……」


 歩み寄るリリちゃんに、サクラが伏せて乗りやすくする。


 そしてリリちゃんがその前足に乗り上げると、僕が引っ張りあげて背中に乗せてあげた。


「うわ~! すごく高いです~!!」

「それじゃあ出発進行!」


 テリーさんとユメさんの馬に続く形で、僕とリリちゃんを乗せたサクラものっしのっしと歩きだす。


「乗り心地はどう、リリちゃん?」

「馬とはまた違う揺れかも知れませんね、慣れるのにちょっと時間がかかりそうです」


 そう言うリリちゃんだけど、その顔はどこか楽しそうに見えた。


 さっきのこともあってか、厄介なゴブリンも一切出てこない。


「さすがだね、ゴブリンの気配はするけど襲ってこない」

「はい、お姉ちゃん! きっとサクラさんのおかげですね」

「へへんっ、ぞうさんは強いんだぞう!」


 こうして帰り道は安全に進むことができたのであった。

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