第8話 この世界の冒険者ギルド
ユメさんに連れてこられたのは、一際大きくて立派な黒い建物。
門の両端には剣と盾を模した銅像が設置されていて、それもよく目立つ。
「ここが冒険者ギルドなんだね。具体的にはどんな場所なの?」
「そうね、冒険者に仕事や依頼を斡旋してくれる施設ってとこかな」
なるほど、僕の知るハローワークみたいな感じか。
門を開けて中に入ると、パーテーションで仕切られた席がいくつもある空間が目につく。
なんとなく市役所っぽい。
「これが冒険者ギルド……」
ファンタジーものではもっとラフな内装であることが多かったから、こんなきっちりとしたところなのは意外だった。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
一番手前の受付嬢が声をかけると、ユメさんは慣れた感じで答える。
「連れを冒険者として登録してほしいんだけど、できる?」
「はい、それではこちらへどうぞ」
受付嬢の案内で、ユメさんと僕は席に案内された。
「まずはわたくし、ティアと申します」
ティアと名乗った受付嬢は、黒髪を頭の後ろで団子にまとめていて、紺色の軍服っぽい制服の上からでも分かるくらい大きいものを胸にお持ちである。
「僕はタスク、こちらのユメさんに連れられてここへ来ました」
「……どうかいたしましたか?」
「あ、いえ。なんでもないです」
うっかりティアさんの豊満なお胸に目がいってしまった、今後は気をつけないと。
「タスクもやっぱ気になる~?」
「いやいや、そんな!」
ジト目なユメさんのからかいに慌てる僕だけど、ふとあることに気づく。
「そういえば僕の顔については何も言わないんですね」
「はい。当ギルドには様々な方がいらっしゃいますので」
なるほど、だからユメさんはここを紹介してくれたのか。
「今回はタスクさんの冒険者登録でしたね。こちらの書類に必要事項を書いてください」
ティアさんに手渡された書類なんだけど、記されてる文字が見たこともないもので、読解も当然できなくて。
「……ユメさん、代わりに書いてくれないかな?」
「もしかして読み書きができないの?」
目を丸くするユメさんに僕はうなづく。
「はい、お恥ずかしながら……」
「分かったよ。それじゃあいろいろと質問するから、それに従って書くね」
それからユメさんの質問に答えながら彼女に書いてもらう形で、書類の手続きを進める。
「少々お待ちくださいませ」
提出した書類を受けとるなり、ティアさんは奥へ引っ込んだ。
「……ユメさん、なんかすみません」
「ううん、気にすることないよ。……でも今後は最低限の読み書きくらいはできないとね。今度あたしが教えてあげる」
「え、いいの!?」
「妹たちと母さんの恩人だもん、これくらいお安いご用だよ」
よかった、これで異世界暮らしのいろはを知ることができる。
しばらくしてティアさんが戻ってきた。
「はい、確かに手続き完了致しました。これから当ギルドをご贔屓にお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
恭しくお辞儀をするティアさんに、僕もペコリとお辞儀を返す。
「こちらがギルド証です」
「これが身分証明になるんですね?」
さっきユメさんが門番に見せてたのはこれだった。
「はい。まずはベーシックランクから始まり、依頼の業績を重ねるごとにブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてプラチナとランクが上がっていきます」
「あたしはブロンズね」
そう言ってユメさんが見せてくれたギルド証は、確かに銅色である。
そんなところに目が行ってたら、ティアさんが続いてこんなことを。
「それではついでにタスク様の適正を鑑定致しましょう」
「適正を鑑定?」
「――タスクにはどんな職業が向いてるかを、ギルドが見てくれるって。人には向き不向きってあるじゃん?」
なるほど、ゲームでいう戦士とか魔法使いを最初に決めるあれね。
そう解釈したらティアさんが透き通った水晶玉を提示してきた。
「こちらに手をかざしてください、そうすればタスク様の適正が浮かび上がるはずです」
「そういうパターンか。はい、お願いします」
僕が水晶玉に手をかざすと、さっきまでの読めない異世界文字ではなく日本語の羅列が浮かび上がってくる。
「おやおや? 見たこともない文字ですね……故障でしょうか?」
「いえ、僕にはちゃんと読めるので大丈夫です」
えーと何々?
「適正のある職業は戦士。属性は火、水、風、土、光、闇っと。……あれ、どうしました?」
僕が読み上げたら、ティアさんもユメさんも目を見開いてビックリ仰天していた。
「どうしたもこうしたもないよ! それって全属性の魔法が使えるってことじゃん!? あたしだって火の魔法と少しの無属性魔法くらいしか使えないのに!」
「全属性に適正がある冒険者は当ギルドですとあなたが初めてですよ!」
「え、そうなの!?」
どうやらとんでもない素質が僕にはあるようで……。
それ以外にも使えるスキルがいくつも綴られていて、このまえのはなシャワーに加えてはなタイフーンやぞうさんプレスなど、どれも象に関係のありそうなものだった。
それにしてもはな◯×にぞうさん◯×って、なんか名前が幼稚……。
驚愕のあれこれもあったけど、僕の冒険者登録もつつがなく済んだのであった。
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