冒険者になろう
第7話 異世界の町ツーガル
森を抜けて通る平原の道を見通した先に見える白い壁、あれが町なのかなー。
テリーさんが言うには、あの町はツーガルっていうんだって。
そんなことをぼんやりと考えながら象さんのサクラに乗って進むと、町の入り口で二人の門番が待ち構えていた。
「と、止まれ!」
「何だあのデカブツはぁ!?」
僕たち、というかサクラを見るなり慌てて槍を交差させて入り口を塞ぐ門番。
ユメさんたちもそうだけど、門番も象をご存知でないみたい。
この世界では一般的な存在じゃないんだろうな……。
そんな彼らにテリーさんとユメさんが声をかけて何かカードみたいなのを提示する。
「門番さん、これでどう?」
「お、おう。通ってよし」
テリーさんとユメさんたちを乗せた馬二頭を通した門番だけど、僕とサクラが通ろうとしたら再び入り口を塞いだ。
「待て、お前は何者だっ」
「見たことない奇妙な顔だが、獣人か?」
ああ、やっぱり象の顔って変だよね……。
「怪しいものじゃありません。こちらの象さんも大人しい子なんです。ほら、サクラ」
「ぱおーん」
僕とサクラが身振り手振りを交えて敵意がないことを伝えると、門番は難しい顔をしてこう告げる。
「嘘を着いているようにはみえないが、とりあえず持ち物だけでもチェックさせてもらおう」
「は、はあ」
空港で受けるようなボディーチェックを受けたところで、僕たちもようやく町へ入る許可が下りた。
入場するとユメさんとリリちゃんはもう馬を下りている。
「あれ、馬はどうしたの?」
「馬なら停留所に置いてきたよ」
ユメさんの解説で僕はなるほどと思った。
異世界には馬を一時的に置いておく場所があるんだね。
「サクラも停留所に置いてかなきゃだよね……?」
あごに指を添えて考え込む僕に、サクラはこう言った。
「それなら大丈夫だぞう。ほらっ」
そう言うなりサクラは再び豆粒みたいな姿に変身する。
「なるほど、これなら邪魔にならないね」
「すごいです~!」
豆粒になったサクラを僕が鼻の穴に入れると、リリちゃんも手をパチパチ叩いて感心してるよ。
「それじゃあ行こっか、タスク」
「はいっ」
こうして僕はユメさんに連れられて、異世界の町を歩くことにした。
町並みは中世ヨーロッパみたいな感じかな、レンガ造りの家々が隙間なく立ち並んでいる。
ここから町の中心に目を向ければ、一際高い塔みたいな建物が建っている。
そして行き交う人々で賑わう通りには、普通の人間以外にも猫耳やエルフみたいな長い耳の人たちもちらほらと見かけた。
とはいえ僕みたいに象の顔した人なんて一人もいないからか、道行く人々からじろじろと見られて落ち着かない。
周りからの目に顔を伏せながら歩いていると、ユメさんがある建物を指差した。
「ここが洋服屋だよ」
「へー、これが洋服屋さんか~」
目の前にある小さな建物は、着飾った男女のシルエットを模した看板が赤い屋根に立て掛けられている。
ユメさんとリリちゃんに連れられて入ると、中でおしゃれな装いの女の人が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、今日は何の用かしら?」
「メイクさん、この連れに合う服を見繕ってくれる?」
ユメさんに紹介された僕を、メイクさんと呼ばれた女の人がじーっと見る。
「顔もそうだけど、かなり恰幅のいい体型ね~。この身体に合うお洋服を作るのはさぞ大変だと思うわ」
「なんかすいません……」
「でも私にできないことなんてないわ、採寸するからちょっと来てちょうだい」
「ありがとうございます」
そうして僕はメイクさんに身体を採寸してもらうことになった。
この世界にメジャーみたいなのはないのか、目盛りの記されたロープで採寸するようで。
「――もういいわよ」
「え、もう?」
「ええ。明日には服を見繕っておくから、また来てちょうだい」
「ありがとうございます、メイクさん」
三分と経たずに採寸を終えたメイクさんにそう言われて僕たちが店を出ようとしたら、ショーウィンドウに飾られている空色のドレスに目を奪われているリリちゃんを確認した。
「リリちゃん、もしかして着てみたいお洋服があるの?」
「い、いいえっ。リリは別にそんなこと……」
そうは言いつつも、リリちゃんの目線は空色のドレスと僕をしきりに行き来している。
「タスクさんの用事はもう終わったんですよね。それじゃあ行きましょっ」
「う、うん」
気を遣ってお店を出たリリちゃんの様子に、僕はユメさんにチラッと目配せをしてからひそひそと囁いた。
「ユメさん、リリちゃんにお洋服を買ってやることってできないかな?」
「それなんだけど、リリが気を遣ってるみたいなんだよ。あのお洋服、結構高いし……」
そっか、お洋服の値段をリリちゃんは気にしてるんだ。
「んー、僕にお金があればいいんだけど……」
腕を組んで考える僕に、ユメさんがこんな提案をする。
「それじゃあタスク、あんた冒険者にならない?」
「冒険者?」
頭にはてなマークを浮かべる僕に、ユメさんが指を立てて説明を始めた。
「そう。あたしもやってるけど、誰でもなれるから手軽だよ。右も左も分からないあんたにはぴったりだと思う」
なるほど、これはファンタジーでいう冒険者と同じ感じか。
「それじゃあ紹介お願いします」
「決まりだねっ。それじゃあタスク、これから冒険者ギルドへ行こっか。お父さんはリリを見てて」
「あ、ああ。それはいいが」
こうして僕はテリーさんとリリちゃんを置いて、その足でギルドとやらへ行く事になった。
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