第6話 ピンク色の象さん
「ぱおーーーん!!」
と鳴き声ではなく普通に言葉みたいな声をあげるピンク色の象さんに、僕たちは目を白黒させる。
「あのータスクさん、この方は……?」
「それが僕にも分からないんだよ」
目を丸くするリリちゃんに、僕も困って肩をすくめるしかない。
「だけどあの動物、タスクに似てない?」
ユメさんの感想はごもっともだ、だってどっちも同じ象なんだから。
一方でピンク色の象さんは長い鼻を上げて挨拶をする。
「マスターに助けを呼ばれた気がしたから出てきたぞう」
「マスターって、僕が?」
「それ以外に誰がいるんだぞう?」
どうやら目の前の象さんは僕を主人にしているみたい。
余談だけど象は象でも僕の顔と同じインドゾウそのものの姿で、牙が見えないうえ両耳に赤いリボンがついてるからメスもとい女の子だと見受けられる。
そんなことを考察している僕をよそに、ユメさんとリリちゃんはそのピンク象さんに興味津々のようで。
「これって本物なんだよね?」
「はわ~っ、なんか固いです~!」
「えへへっ、くすぐったいぞう」
ペタペタと触れ合ってくるユメさんたちにピンク象さんも友好的みたいで、僕も安心した。
「ところで君は何者なの?」
「わたしはマスターの眷属だぞう。……わたしに名前をつけてくれない? マスター」
そう言うとピンク象さんは僕の前で伏せる。
「名前かー。うーん……じゃあサクラでどう?」
「サクラ、――気に入ったぞう!」
単純に身体の色から考えたんだけど、気に入ってもらえて何よりだよ。
「それでマスター、わたしどうすればいいぞう?」
「僕を助けに来たんだよね。それじゃあ僕を背中に乗せてくれる?」
「もちろんだぞう!」
二つ返事でサクラが鼻で前足を差し示したから、僕はそこに足をかける。
「ぱおっと」
そうするとサクラが鼻で僕の身体を持ち上げて、肩辺りに乗せてくれた。
「うわ高っか!」
大きな象の背中はいざ乗ってみるとその高さにちょっとビビってしまう。
「……これで馬問題は解決しそうだな、タスク君。それじゃあ我々も行こっか」
「はい、お父さん」
テリーさんとユメさんたちも馬に乗ったところで、僕たちは最寄りの町へ出発することに。
テリーさんとユメさんが駆る馬二頭に着いていくサクラに乗っているわけなんだけど、これが思いの外揺れるわ揺れるわ。
乗り心地はサクラが一歩踏み出すほどに大きく前後に揺さぶられる感じ、でもなんか悪くないぞう。
「それにしてもサクラちゃん、大っきい身体ですね~」
「リリちゃんだよね、あなたもたくさん食べればきっとわたしみたいに大きくなれるぞう」
「そうだといいんですけど……」
「サクラもこう言ってるんだし、気にすることないと思うよリリちゃん」
「タスクさん……そうですね、ありがとうございます」
村を出て森の道をしばらく歩いていると、突然脇道の藪がガサゴソと音を立てて揺れ始める。
「待て、何かいるっ」
「リリ、気をつけて。あとタスクもっ」
「はいっ」
「う、うん」
テリーさんとユメさんの声掛けで警戒してると、藪から飛び出してきたのは五匹の奇妙な生き物だった。
「あれは、ゴブリン!」
え、ゴブリンなんているの!?
確かに小柄なそいつらは緑色の肌をしていて、耳と鼻が大きく突き出している。
確かにこれは絵に描いたようなゴブリンだな……。
「クキャキャキャ!」
「クキャフーーッ!!」
粗末な木の棒を振り回して威嚇する五匹のゴブリン。
「テリーさん、こういうときっていつもどうしてるの?」
「それはもう、邪魔だから倒すなり撃退するなりしてるが」
「そっか。――じゃあサクラ、あいつらを蹴散らすことってできる?」
「もちろんだぞう! ぱおーーーん!!」
そう言うなりサクラが巨体でゴブリンたちに突撃する。
「クギャギャ!?」
「クギャッ!?」
その突進でゴブリンのうち二匹が突き飛ばされて動かなくなった。
「はわ~、サクラちゃんお強いです~!」
「えっへん、だぞう!」
リリちゃんの称賛にサクラが誇らしげに鼻を上げてるけど、右側にゴブリンがまだいる。
「――サクラ、右みぎっ!」
右側から攻撃を仕掛けようとするゴブリンに僕が注意をかけると、サクラはすかさず長い鼻を振ってゴブリンたちをまとめて吹っ飛ばす。
象さんの鼻は百パーセント筋肉の塊、その一振りはかなりの威力になるだろう。
「く、クギャ~!!」
そして一匹だけ残ったゴブリンは、一目散に逃げていった。
「大勝利だぞう!」
「こらこら、そんな踊らないでっ」
四本の足でステップを刻んで巨体を揺らすサクラを、僕はどうにかなだめる。
それからも度々ゴブリンが出てきたけど、その都度サクラが撃退してくれた。
「いや~、ここまでサクラが強いとあたしの出る幕がないね」
「ふふーん、わたしは強いんだぞう!」
ユメさんとテリーさんが手持ちぶさたな一方、めざましい大活躍で文字通り鼻高々なサクラ。
そうして歩いているうちに、僕たちはいつの間にか町のすぐそばまでたどり着いていたんだ。
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