赤いワンピース

・・・ピロン♪


 また、頭の中から遠くのほうで、音がした。スマホの通知音だった。


 通知音が鳴って間もなくして、あなたは動き出す。


 絶望に打ち拉ひしがれる最中に、少しの希望が捨てきれない自分がバカバカしくも疎かでもあった。最早、もう終わって欲しかった。不安と恐怖、驚愕させられ抵抗すら出来ない歯がゆさ。の放出に脳内が慣れてくるころだった。


 虚無の境地で勝手に進む目前を眺めていると、目端に赤い色が一瞬だけ映り、通りすぎた。また戸が朽ち果て開け放たれた部屋の中から見えた気がした。しかし、あなたの意思で引き返すことは出来ない。


「・・・あ、あ・・・らふへ・・・へ」


 救出か、はたまた別の敵か。もうそんなのはどちらでもよかった。もう、これが続けられることの現実から逃げたかった。


 操縦者もその赤いナニカも、お互いに気付くことなく進む。



 階段があり、そこを降りて行く。もしかして、このままこの建物から出て行けるのではないかともまた希望を感じさせられる。



・・・ジャリ・・・ジャリ・・・カサカサ・・・・・・



 一階部分の床は多くの枯れた草木や砂利があり、壁も所どころ穴が開いていたりと腐食が激しく、すらしている。


 操縦者の方向感覚は確かだろうか。あなたにはそんな思考を張り巡らせる体力は残っていなかったので、ただあなたを操作している人物に祈り、託すしかない状況で、また自分が笑けてくる。やはり、まだ少し助かりたいという見込みを、自分は感じている。



≪・・・いや、いや、なんで・・・こんな・・・いやぁぁぁぁぁ≫


 あなたが操作して、恐らく死なせてしまった女の子の絶望した悲鳴を思い出す。

 あの子は自身の何を見たのだろうか。あのような絶望を感じる悲鳴を上げるほどのことに、今、自分も、きっと成っているはずなのに・・・・・・


 希望と絶望の狭間に、あなたは経っていた。




・・・カサッ・・・ザザ・・・・・・


 背後から草木と砂利を踏みつける音と、異様な気配を一心に感じた瞬間


カー、シュンッ!


 鋭利な鉄が地面を掠めるような音と同時に、あなたは右へと大きく倒れ込んだ。頭を壁に打ち付け、少し前方へと倒れ込む角度が変わり、ドンと落ちたその目先には汚れきった裸足の足首だけが見える。


 首がまた勢いよく上へと向けられた。するとその足首から上が見える・・・はずが、それより上の部分は無くなって足に血が滴っている。これは、この足は先ほど切られたあなたの右足でした。上へと向けられたあなたの顔の、その足首の先から「ヌン!」と現れたのはあの鳥頭マスクの顔で、口ばしはあなたの顔のどこかに当たり少し曲がるほど顔を近づけてきた。硬質なイメージだった口ばし部分は革製で、目はゴーグルのようにまん丸な目で頭部はヘルメットのようにツルんとしていた。鳥頭マスクの死神はあなたの顔をまじまじと見定めて、庭の時のゾンビのようにその場で惨殺をするかと思いきや、そのまま髪を掴みあなたはまた引きずられる。




ブチッ!・・・ブチブチブチッ!


 掴まれた髪が全部引きちぎれる音の後、あなたの目線は上へと変わる。


・・・ガシュ!


 死神の鎌が振り下ろされ、痛みは無いが下腹部から腹部にかけて違和感だけを感じ続けながら、引きずられて行く。その間、冷たそうな鎌の持ち手をあなたはただ眺めていた。


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