逃走

 あなたは気が焦り、心臓の鼓動も早くなっているにも関わらず、動きはまた一歩づつ、のんびりした動きで進む。


《早く早く早く早く早くー!》


 かなりのストレスを感じながら、やっとこれまでいた部屋から出て廊下らしき通路に出る。あなたは左回り理論(人間左回りの法則)を知っていたので、このような時はいつも右に行きたいのだが、操縦者は単純な人間のようで迷うことも無く左へと舵を取る。


 人が二人、並んでギリギリ通過できる程度の廊下を進み、いくつかの部屋を素通りし突き当りを今度は右に。そのすぐ先にあった左の部屋に入って行くようでした。あなたは意思通り動けない歯がゆさの中、ただ見守ることしか出来ない。兄弟や友人がプレイしているゲームを、ただ超リアルタイムに一人称で見せられている気分だった。


 操縦者が選んだ部屋はボロボロに壊れて埃だらけのタンスや机、マネキンが多く収納された二階の物置き場のようでした。横向きに歩けないあなたは多くのマネキンや机に腕や肩、足をぶつけながらなんとか押し入り、部屋の奥まった所で止まる。


「・・・!!あ”あ”あ”、ぎぃぃぃがあ”がぎぎぎぎぎ・・・・・・」


 また電流が走り、あなたは気を失いかけました。首が少しふらふらと動き、間もなく頭部のライトが消えた。消灯も可能だったようだ。

 電流はなんだったのか。意味はあるのか。あなたが操作していた時と同じく押してしまったのだろうか。恐らく、消灯方法を探るのに押してしまったのだろう。頭が破裂しそうなほどの激痛に操縦者への恨みを持ちながらも、自責の念にも駆られる。あなたは自宅での操作の際に”三回”も押したのだから。


 暗闇に潜む中、あなたの目の前はチカチカと無数の光が稲妻のように中心から周辺にへと花火のように輝く。強く頭を打った時に目の前が光るというが、二度の電流で生じていた。

 視線と意識がふらふらと蹌踉よろめくが、身体は横になったり座ることは当然、許されない。ただ真っ暗な視界の中に立たされ、目の前には汚れ変色したマネキンが近距離であなたを見つめてくる。



・・・コンッ・・・コンッ・・・コンッ・・・・・・



 遠くから徐々に、鎌の柄を杖代わりにして歩いてそうな音が近づいてくる。



・・・コンッ・・・コンッ・・・・・・


・・・コンッ、コツ、コツ・・・コンッ、コツ、コツ・・・・・・



 杖の音に、革靴かブーツのような足音がリズミカルに続く音が追加され、あの鳥頭マスクの死神があなたがいる部屋の前の廊下を歩いているのが明確となった。



・・・コンッ、コツ、コツ・・・コンッ・・・コンッ・・・コンッ・・・・・・



 音が離れて行く。



・・・コンッ・・・・・・



 殆ど聞こえなくなった。良かったと安堵したい所だが、まだ続くこの地獄の逃避行に気が変になりそうだった。


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