ペスト医師

 そうして、ガラスの一切が無くなった掃き出し窓へとやってきて、そのままバルコニーの外へと真っすぐに進む。木々と草花が新芽を見せ出す時期ではあったが、外の月明かりではそんな風情に思い馳せることも無く、暗闇の中に風で蠢く枝葉があなたを嘲笑っているかのようにさざめき出していた。


 アーチ状にカーブを描いているバルコニーの柵や手摺りは、風化したのか劣化したのか、殆どが朽ち果て崩れている。床も今にも崩れ落ちそうにコンクリはひび割れ、繋がった鉄骨で支えられているように少し地面がバウンドしている気がする。


 もう一歩であなたは落下しそうな所まで前進させられ、また首の骨が軋むように首が上下左右、あなたの意思に反して動き周辺を確認していく。

 高さは二階。目下には木が生い茂っていない空間が開かれ、数点のモニュメントが点在したこの建物の敷地内の中庭のように見える。


 あなたのはこの庭をずっと眺めているようでした。


 薄っすらとした月光で見えるモニュメントの影は、公園にあるアーチ状の雲梯うんていのようなゲート。噴水のような塔とションベン小僧かマーライオンか、何某らの像。ブランコの名残のような鉄棒の柵と・・・手前二つのモニュメントがゆっくりと蠢いていた。


 奥目の一体は、まるでゾンビのようにふらふらともう一体のモニュメントから離れて行こうとしている、普通の人間シルエット。もう一体は、そのゾンビ人間風の方にゆっくりと近づく。その影は、頭部がカラスのような口ばしが有る鳥のような全頭マスクを被り、身体は人間で膝まであるロングコート。その手にはまるで死神が持つような大きな鎌を構えて、ゾンビ人間を狙っている。口ばしと鎌の相互関係は三日月のように模っていて月光と相まっていた。


 鳥頭マスクの死神は鎌を振りかぶり、ゾンビを真っ二つに裂いて佇んでいる。頭部を切り離し、髪を掴んでこっちを振り向いた。その刹那、あなたは死を覚悟するほどの恐怖を感じるが、操縦者はまだ動かずに事の成り行きを見守っていた。


 死神がこちらに向かって歩いてくる。次のターゲッティングを間違いなくあなたへ設定した歩みをしていた。それは当然で、あなたの頭からはずっとライトが点灯し向こうからは丸分かりである。


 操縦者は死神があなたがいる建物内に入ったのをご親切に確認してから、180度方向転換し移動を始めた。


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