廃墟
カビ臭く草木も腐り、湿った臭いがあなたの鼻を
月明かりでしか周囲は見えず、頭がやけに重い。まるで前頭部にオウムでも止まっているかのように。
その二点に起きざま意識の重点が置かれ、遅れてあなたは気が付いた。
左目が全く見えていないことに。
左目を確認しようとして、また次に気が付いた。
身体が全く動かないことに。
腕を動かし目と頭を確認しようとして、動かない。立ち上がろうとして、足も動かない。ここは何処かと確認しようとして、首も動かない。
あなたは目線の高さから察するに、椅子に座らされている状態のようです。目線の先には今では珍しいぐらいに見なくなった、大きくて分厚いブラウン管テレビが地面に無造作に置かれていた。
「あぁ・・・が・・・お、おひ・・・・・・」
微かにだが発せれるようだった。喉が異常に乾いていて、脱水しかかっている。
「・・・あ・・・んら・・・ろう・・・ひれ・・・・・・」
都会の喧騒、モスキート音は全く聞こえない。無駄に声を出して体力の消費は避けた方が良さそうだった。目いっぱい右目の眼球を右へと動かし何があるかを確認する。目端に見える掃き出し窓にガラスは破片すら無く、外部からの風が残酷にあなたを吹き付けてくる。天井や壁、床はコンクリートが打ちっぱなしの剥き出しで、冷たい空気の真っ暗なこの世界を更に冷たく冷酷さを表現してくる。微かな月明りと蟲たちの合唱も、恐怖を煽って助長しているようだった。
室内の雰囲気はまるでどこかのビルかマンション、ホテルの廃墟のようで、生き物と生活感の気配は全くない。
何もかもが冷たい世界の中で、足裏の感覚すらない。靴を履いているのかどうかも分からない。履いていれば多少の圧迫を感じるだろう。履いていないなら今、視界の殆どを支配してる不気味で無慈悲なコンクリートの冷たさを感じるはずだ。そこであなたは上手く喋れない原因も分かってきた。
全身が麻痺している。
手足が動かないだけではない。まるで存在していないかのように感覚が全くない。舌もそうだ。ヘタに喋ろうものなら舌を嚙み切りそうな、歯医者で麻酔を大量に打たれた後のように。感覚が無い中でも、耳の奥には痛みをずっと感じている。なのに意識があり視覚や聴覚だけは生きていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます