アプリケーション

 あなたは友人からその真っ黒なナゾのスマホを手渡され、右サイド上部、丁度右手で持った時に親指が当たる部分の電源ボタンらしき物を押してみた。どうせロックが掛かっていて二人で解除コードの推察が始まり、何度か失敗し強制ロックが掛かって終了だろうと思っていたが、スマホの画面はあなたの顔を読み取り解除された。


「・・・え?」


「ん?・・・お!ロック設定されてないじゃん!」


 あなたにはスマホが、まるで持ち主かのようにインカメラで顔を認識して解除した一連の流れが見えた気がしたが、そんな訳がないし気のせいだろうと思い直した。


「うお!かわいい!マジで??」

 あなたの横からスマホ画面を覗き込んでくる友人のテンションが上がって、無邪気な顔で画面をガン見している。画面にはバックがキレイな青空と澄んだ海が広がり、茶髪で瞳が大きな可愛らしい女の子が自撮りをしている写真だった。


 あなたが何気に横へとスライドすると

「お!いいねぇ、おいどっちが好みだよ。俺はさっきの茶髪かなぁ」


 先ほどの明るそうな子とは少し雰囲気が違う、大人しめの黒髪で前髪が眉毛ラインまでで切られ、サイドを垂らしポニーテールで束めている女の子の顔が映し出されてきた。

 友人は女の子の画像に目が釘付けになっているだけだったが、あなたは異変に気が付いた。


「・・・なぁ、このスマホやっぱり変だって。アプリがしか無い」


「ああ?・・・どれ」

 友人は少し強引に黒いスマホをあなたから取り上げ、左右へとホーム画面をスライドし続けている。


「・・・本当だな。通話やメールアプリすら無いぞ」


 左のホーム画面、元気な笑顔の茶髪で写っている子の上部には『Mad Satanマッド サタン』と書かれた、悪魔か鬼のような顔のゲームみたいなアイコンが一つ。

 右のページ、前髪が短い黒髪の子の上部には『TAMA NEGI』と書かれた、玉ねぎをカットした断面のアイコンが表示されている。


 スマホ裏のカメラレンズは全く何のためにあるのかも分からないように、カメラアプリすら表示は無かった。上へとスライドさせても、プルダウン、アプリ外を長押し、ダブルタップやピンチなど、様々な操作をしてもアプリ一覧や設定が現れることも無く、二名のかわいい女の子の笑顔と二つのアプリが行ったり来たり、まるであなたを嘲笑うかのように見つめてくるだけでした。


 埒も明かなかったが、つい、指が当たってしまったのか、画面いっぱいに『Mad Satan』という黒い悪魔の顔に赤い文字が表示されるが、直ぐに画面は切り替わり白とピンクのフレーム背景に、可愛らしく清楚系のアナウンサーのような女性がまるでガイダンスをするかのようにこのアプリの概要説明が入りました。





【このアプリはリアルタイム・マッチングアプリです。GPSを使いユーザー同士をお互いに現在地やカメラで表示しリアルタイムをも共有し、ログインしているあなたのすぐ傍に居るあなたと同じように出会いを求めている、寂しい子羊たちを示し合わせます。

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「・・・なんだこれ?ゲーム?なのか??」


「マッチングアプリって、最初に言ってるぜ?」


「なんだか面白そうじゃね?とりあえず次へいってみようぜ」


 友人はもはや楽しそうでした。

 次へ進むと『now loading』の画面から中々終わらず、あなた方は待ちきれずに拾ったスマホを置いてドリンクを飲みながら談笑を交わし出しました。

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