カワフチさんの話の続き

 質問があったんですけど、愛犬ウルトラの名前の由来はウルトラが我が家にやってきたのが私がシン・ウルトラマンを観た直後だったからです、大した理由ではない。可愛いぞウルトラ。画像の貼り方わかんねえから貼らないけど、こないだストレスが爆発してネットでウルトラに着せるお洋服を爆買いしてしまいました。楽天で安かったので。うぃ。

 ごめん、ウルトラの話は余計だったな。でもちょっと気持ちを落ち着かせたかったんですね。今ウルトラはすやすや寝ています。可愛いね。


 それでどこまで話したっけ?喫茶店のところまでか。

 そう、カワフチさんが啓二おじさんに聞いた父の実家の秘密について。


 父の実家は和歌山のちょっと不便なところにある、ってのは前にも書いたよね。タカハシさんの実家のある県庁所在地からは離れてる。

 グーグルマップで和歌山見てみるとわかるけどさ、県庁所在地とか有名な白浜があるのは基本海沿い。有田みかんで有名な有田市も海沿い。後は山!って感じじゃん?山の方は熊野古道が凄く有名だけど、それ以外の観光地、有名な場所、栄えていそうな場所は大体海に近い感じしないかね。

 まあちょっとめんどくさい事情で具体的な場所は言わないし言えない。実家はまだあって従兄弟が住んでんのよ。私も今度友達連れて乗り込むので。まあ素人が簡単にアクセスできる場所ではないだろうけど。ただちょっとだけ内陸、山寄りの地域、とだけ。熊野古道のルートとは外れてるかな。お前ら探すなよ。わかったな。


 父の実家のある地域全体はそんな問題のある場所じゃないのよ。最近いんたーねっつでおもちゃにされがちな因習村みたいなとこではない。至って普通の集落、村以上町未満、昔はもうちょい栄えてたかもしれない町、って感じかな。余談だけど祖母の入ってたホームは海沿いのある程度栄えた地域にあった。


 問題があるのは父の実家だけ。


 ざっくりいうと忌み地?みたいなとこだったらしい。とは言え忌み地って言い方が正しいわけではない。


「とてもめんどくさいものの管理を任されていた家系」というのが正しい。でも人に説明するなら「忌み」という言葉を使う方がわかりやすいから「忌み」と呼んでいる。カワフチさんは「昔から家の中に忌みがいる、と啓二さんは繰り返してた」って言ってた。


 その「忌み」の正体は子供。これ以上はよくわからん。


 その「忌み」をなだめすかし抑えるために毎年お盆のある日に血縁者の誰かが家の庭にある井戸にお清めのために日本酒を注がなくてはならない。それをサボると血縁者に、主に家を継ぐ男子に災いがふりかかる。

 よくオカルト板で見るようなつまんない話なんだけどさ、ガチだったんだってさ。


 父の1番上のお兄さん、雄一おじさんていうんだけどさ。そう、啓二おじさんが「取り込まれてしまった」って言ったおじさんのことね。おじさんのゲシュタルト崩壊みたいな文章でごめんね。

 ある年に何を血迷ったのか、酔ってたのかなんなのか知らないけど日本酒じゃなくてビールを缶ごと井戸に投げ込んだんだってさ、雄一おじさん。

 そしたらそれから3ヶ月もせずに糖尿病になった。暴飲暴食するタイプでもなかったしまだ若かったのに。ほんと前触れなくいきなり。血液検査とか体重とかコレステロールとか、なんの予兆もなくある日突然その病気になった。酒飲んで道端で寝てて通報されて急性アルコール中毒みたいになってたから病院に一泊入院して、その時様子がおかしかったのて後日色々検査して判明した。

 糖尿病もよく知らないと悪化したら即足切断、みたいな怖いイメージあるけど案外人によって症状に差があってさ(型?があるよね)母方の親戚の人なんかは適度な食事制限とか運動と、毎食時の服薬だけでまあそれなりに普通の生活出来てるんだよね。それこそ薬さえちゃんと飲んで生活習慣と体重の推移さえ常に気をつけてりゃ外食も全く出来ないわけじゃない。でも一方で常にインスリン注射が必要な人もいるわけで、雄一おじさんは常に注射持ち歩いてるタイプの糖尿病。

 それでも病気発覚からなんだかんだ2〜30年はなんとか生きながらえたけど、結局60代でガンで死んだ。

 持病があるからこそ会社の健康診断だけじゃなくて毎月病院で定期検診受けてたんだけど、ガンもある日突然降って湧いたようにでっかいのが体に現れて、そっからはあっけなかった。聞いた話だと発覚から死ぬまで3ヶ月位かな。

 雄一おじさん、息子が(私に取っての従兄弟が)2人いたけど長男はやっぱり事故で早死にしたんだよな。次男の方は結婚してまだ元気にしてるみたいだけど、結婚かなり遅かったから雄一おじさん孫の顔を見られずに死んだんじゃないかな。

 ちなみに今、実家を継いでるのは啓二おじさんの方の従兄弟です。

 雄一おじさんの方の生き残ってる従兄弟も和歌山にいるけどあの家には住んでないはず。近場にはいるはずだけど。住所はあとで年賀状見ればわかるな。

 ちなみにカワフチさんが啓二おじさんに聞いた話だと、多分雄一おじさんは鬱らしき症状も出てた可能性がある。あくまで聞いた話で受けた印象ですが、とカワフチさんは言ったけど、実際メンタル含めてずっと体調が良い状態じゃなかったのは本当なんだろうな。

 そこから数十年。本人も間近で支える家族もしんどかっただろうね。

 家は前述の通り、伯父2人とその家族との交流は最低限だったからそこまで酷いとは思ってなかった。父が「父さんの1番上の兄貴、持病があるんだよ。遺伝的に考えてお前らも何があるかわからんから体調悪かったらすぐ病院行けよ」とは言ってたけどさ、そこまで深刻だとは思ってなかった。

 実際は酷かったから雄一おじさんの家族のフォローのために啓二おじさんが関西に戻らざるを得なかったんだと思う。

 家計を助けるための財布、忌みのいる井戸を維持するために出来るだけ健康な血縁者が必要だったから。


 父はさ、末っ子で多分祖父にはそんな期待されてなかったんじゃないかって。だからとりあえず啓二おじさんだけ呼び戻された。父は就職してほんの1〜2年で上司の紹介のお見合いであっさり母と意気投合してすぐ結婚して、そのまま母の実家に住むようになって、そのまま神奈川県に納税してたのよ。そこそこ良い会社に勤めててお給料が良かったからか、実家に毎月援助はしてたらしいけど。これもまあ気持ちはわかるけど搾取やね。祖父が亡くなってからは送金しなくなったらしいが。これは日記に書いてある。あと啓二おじさんがなにかに付けて父に気を使ってくれているのがわかる。良い人だね。

 

 カワフチさんの話を聞く限り、啓二おじさんは本当に出来た人だったらしい。

 啓二おじさんも父も同じ大学の出身で、まあ一応誰でも知ってるような有名な大学なのよ。でも父は文系でギリギリ補欠合格、啓二おじさんは理系でトップ合格とかで、子供の頃から啓二おじさんの方が遥かに出来が良かったわけ。


 私らは「忌み」のことなんて全く知らなかった。

 知ってたら母は私達子供を何が何でも帰省には連れて行かなかったと思うよ。めんどくさいことをほんっとに嫌う人だから。

 母本人も怖がりだし。伝統は大事にしたがる人だけど、怖い事はほんと大っ嫌いなんだよね母。ただの地方の伝統的なお祭りの手伝い、とかだったら普通にやってたと思う。でもオカルトの胡散臭い匂いがしたら途端に心を閉ざすタイプですね、母。だから母はほんとなんも知らずに定期的に子供達を連れて父の帰省に付き合ってたんだと思う。それか知ってても本気にしてなかったか。

 まあ荒唐無稽だもんね、新幹線も飛行機も高速道路も発達して田舎と都会の行き来が楽になってる時代に因習とか忌み地とか井戸とか真顔で言われても、神奈川生まれ神奈川育ち、ハマっ子の母からしたら「それってこないだデートで観たサスペンス映画のことかしら?」だよ。


 カワフチさんの話と日記を熟読する限りで言えば父もさ、本当は家族を巻き込みたくはなかったんだと思うよ。面倒な伝統、理不尽な死に対する抵抗感はあった。啓二おじさんにも「お前は無理をしなくて良い、俺がなんとかする」って言われてたらしいから。なんとなく、啓二おじさんは父を実家から遠ざけたがってたし、実家の面倒ごとを1番終わらせたがってたのはもしかしたら啓二おじさんだったのかもしれないね。

 でもさ、恐らく父には子供の頃からの祖父による刷り込み、洗脳みたいなのがあったんだと思う。

 期待されてない末っ子とは言え、子供の頃からの親の教育ってでかいじゃん。

 だから「墓参りとホームにいるおばあちゃんに挨拶だけしにいこう」っていう口実で不定期的にでも、短い期間だけでも、って家族を連れて帰省してた。

 狭間でずっと悩んでたんだろうな。

 実家のゴタゴタに巻き込みたくない、でも祖父の言いつけは守らないといけないし啓二おじさんにばかり負担を掛けたくない。

 期待されてない末っ子でも、親に少しは良いところを見せたい。

 でも息子が早死にしたら、娘もいつか子供を生むかもしれない、もしそれが男の子だったら、むしろ娘の配偶者は大丈夫なのだろうか、忌みの悪い影響があるのではないか。それは耐えられない。

 最終的に祖父の、実家からの洗脳に対して妻と子供への愛情が勝って、去年やっと離婚という形で私達を切り離したんだな、忌みから。

 何十年掛かってその自らの洗脳という呪いを解いたんだと思う、父。

 結局終活が間に合わないまま突然のひっでえ事故で死んじゃったから、本来の呪いから完全に逃げ切れてなかったんだろうけどね。緩やかな呪いってやつかな。

 とは言え、父は極力忌みから距離を置こうとしていたからまあまあ家族や仕事には恵まれた状態で死ねたのかもしれないけど。

 これは私達とカワフチさんによるただの憶測な。

 あと多分井戸の番の時はちゃんとやることはやってたんだと思う。

 雄一おじさんみたいなやらかしはせず、ちゃんと安物でも日本酒を持って行ってたんだろうな、というのは想像がつく。

 ある時から帰省に家族を連れて行かなくなったのも、多分おじさん達が実家に住むようになって常に誰かが井戸を見られるようになったからじゃないかな。我が家は少し距離を置いたままでもなんとかなりそうだ、そう判断したんだと思う。だから父だけがたまに様子見に行けば良くなったんだ。私はそう思うね。


 ちなみに父の実家、がっつり忌み地の上に家を建ててたわけではないらしいんだよ。

 山の中にある忌み地を抑え続けてたのが父の家系?で別に家そのものは山の麓にあった。

 そんでその忌み地がいわゆる水脈?というか、山の中にある池で、それと庭の井戸が繋がってた、みたいな感じ?だからとりあえず井戸を大事に扱ってたのかな。

 なんか井戸が忌み、ってリングじゃんね………貞子かよ、って思っちゃうよね。髪の毛も出て来てるし。


 しかし忌みを抑える、って本来なら神社が担うような事だし神社が担うような場所だよね。

 うちは全く神社仏閣関係ない家系です。

 むしろマジでただ畑耕してただけの豪農の家系なんだよな。父が田舎にいた頃は遠くの親戚に米送ったりしてて父も手伝ってたらしいから。まあ今はもう畑止めちゃったけど。従兄弟は普通に車乗り回して外で働いてる。らしい。

 田舎の豪農家系だけあって以前はちょっとした土地持ちだったけど、戦後から祖父が亡くなる前後位までの間に忌みに関係ない場所、特に問題ないところは全部売り払ったらしい。地域の他の人が買ったのか国が買ったのかは知らん。でも地域の人がわざわざわけありの我が家の土地を買うとは思えないから国なのかなあ。国が買ってどうすんだろうとも思うけど。観光地にでもすんのか。あんな場所を?

 手紙に長々と土地について書いてあったけど怪文書混じりの手紙だからどれもこれも「らしい」としか言えねえのよ。


 米作ってたから日本酒じゃないと「忌み」のお気に召さなかったのかな。ビールなんて海外のお酒、好きじゃなかったのかな。ビール美味いのにな。まあ缶ごと井戸に放り込むのは流石に馬鹿だとは思う。

 私は国産よりハイネケンが好きです。まあお値段がお値段なのでたまにしか晩酌はしないが。余談だよ。


 なんかほんとまだまだ先の長い話なのよ、悪いけど続きはまた明日以降に。

 というかこの先の話は和歌山で裏を取ってからの方がわかりやすいんじゃないかな。余りにも「〜らしい」「多分〜たと思う」みたいな話が増えてくるので。だから少し待ってくれよ。

 「忌み」ちゃん本体についての詳しい話、皆1番知りたいとこだとは思うんだよ、わかってる。髪の毛と怪文書の意味についてもな。

 でもやっぱりカワフチさんも父や啓二おじさんから信用されていたとは言え所詮部外者、全貌を把握してるわけじゃないみたいだし、やっぱり私が和歌山で従兄弟ときっちり話さないとなんもわかんないと思う。


 あとカワフチさんに夏までに連絡する事、っていうメモ。

 それについては「今年のお盆に一緒にあの家に行って欲しい、って言われていたのでその事だと思います。あの人、結構早目に旅の予定立てるタイプでしたよね?私は啓二さんのお墓参りも出来ていないし、息子さんに会った事もないので一度行かせて欲しいと以前から言っていたので」とカワフチさんは言った。

 そうすると、先生の指示、っていうのが謎なんだけど、それは弁護士さんの指示じゃないんですか?ってカワフチさんが。

 遺言書作る上でやはり連絡のつく近しい身内全員に出来るだけ話を通しておくのはおかしなことじゃない、恐らく田舎に帰って親戚に会うに辺りどこか心細くて私を思い出してくれたんじゃないでしょうか、啓二さんの友人だったのもあるので、って。

 ねえ、これってあの櫻井似の弁護士もなんか大事な事隠してんじゃないの?なんなのどいつもこいつも。

 とりあえず今日はここまで。


 ウルトラがなんかうなされてる、可哀想だから私も横で寝る。居間にウルトラのケージというか寝床作ってるんだけど、今日はソファで寝ます。

 そう、私はわけあって結婚とか子供を諦めてるからウルトラを我が子のように大事にしてるんだけどさ、ウルトラ、オスなんだよね。

 流石に血縁もくそもないワンコだからなんもないとは思うけど、なんもないといいな。ほんとに。ウルトラ、世界一可愛いんだ。

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