遺言書
遺言書はまあ父の言う事に従って、納骨の時に開ける事に決めた。
妹にラインしたら凄い軽いノリで「ええよ」って返って来た。妹は今日来られたら来る、とは言ってたんだけど、旦那さんが熱出してそうなると子供置いて行けないからごめんね、って事でお休みです。実際この状況で子供連れて来るのもどうかと思うし、今日は兄ちゃんと姉ちゃんに任せとけ、って朝電車の中からラインしたら「兄貴は兎も角お前が心配なんだよ、そもそも電車乗り遅れんなよバカかよ」って返事が来た。なんで兄貴も妹も私への当たりがこんなに強いんだよ。血は争えないなクソだな。
それで遺言書、納骨までは櫻井さんが預かってくれる事になった。
納骨の日に立ち会えるかはわからないけど、事務所は土曜日も一応僕は常駐してるので、朝イチでどなたかが取りに来てくださってもいいし、アポを取って頂けるなら納骨の後に事務所に寄って貰ってもいいですよ、って。でも土曜だから平日よりは早く閉めるので、妹さんとも話し合って、そうですね、今月中にどうするか連絡して下さい、って。
兄貴がさ、タカハシさんに「他に父から聞いている事、預かっている物はありませんか?父、本当に仕事関係以外の人間関係が希薄で、タカハシさん位しか頼れる人がいなかったんだと思います。もう隠し事なく、色々お話頂ければ」って言ったのよ。
タカハシさんは厳しい顔して黙ってしまったんだけど、櫻井さんにも「お子さん達のこれからにも関わる事ですので、何か気になる事があるようでしたらお話頂けませんか」って促されてやっと口を開いてくれたよ。
何度も言ってるけど父はまあ60代前半にしては元気だし健康な方だったんだよね。マジで虫歯ひとつ無い位よ。
でもタカハシさんが言うには、2〜3年前から、定年退職の前後位の時期から酔うと「長生き出来ないかもしれない」みたいなことを言う事が増えてきたんだってさ。
家で晩酌することはたまにあったけど、それ程深酒することはなかったから家族にはそんなこと言ったことない。少なくとも我々兄妹は聞いたことがない。でも母もそんな事があれば教えてくれると思うんだよなあ。
無論自分が幾ら健康体とは言え、祖父や伯父達は実際病気で早逝してるからさ、不安になる気持ちはわかるんだよ。むしろ父、職場の健康診断以外でも2年に1度位は人間ドックに行ってたのはもしかしたら本当に自分の身体が心配だったからかもしれない。もう子供達は手を離れて兄と妹の結婚式にも出られて孫も生まれて、悔やむことなんてあとどれだけあるんだよ、って思うけどさ、でも幾つになってもまあ、死ぬのは怖いよな。
「あと以前帰省の話になった時に、たまには予定を合わせて同じ時期に帰省しないか。お互いの子供も年齢が近いし、帰りに一緒に白浜辺りにでも一泊しないか、と誘った事があるんだけれど」
父は「実家に泊まると凄く疲れてしまうんだ、白浜まで立ち寄る元気なんてないよ」と答えたらしい。
かなり前、20年位前の事らしい。多分私が中学生位の頃かなあ。
でもさ、家族揃って帰省してた時、そんな疲れるような日程じゃなかったのに。子供と大人じゃ体感が違うとは言え、全行程車ってわけでもなかったし、そんなキツイ日程だったかなあ。違和感よ。
子供達が、我々3人がある程度大きくなってからは、父ひとりで行って、墓参りして、実家に一泊だけして帰って来るようになった。
なんとなく次第に実家から家族を遠ざけていっているような気もした。
兄貴が大学進学でひとり暮らしを始めた辺りから「子供達も夏休みはそれぞれ予定もあるだろうから」と家族揃っての帰省は段々と無くなって行った。最初は母だけが着いて行く事もあったが、次第に父ひとりでの帰省になっていき、家族は誰もそれを当たり前に受け入れ、父も何も言わなかった。
「故郷、というより、家が怖い、というような事は言っていたような、記憶があります」
なんとなく、父の日記を読み込んだら、その理由がわかるような気がする。
あ、あとカワフチさんの方からも連絡がありました。
タカハシさんの家から帰る途中、留守電が入ってるのに気がついて掛け直した。
夕方頃だったかな。丁度駅から家に向かって歩いている途中で、公園のベンチに座って少しだけ電話した。声だけ聴くと、若い女にも礼儀正しくて物腰の柔らかい紳士的なおじさん、て感じ。なんとなくタカハシさんもそういうタイプで、父の性格的に荒っぽい人、声の大きい人、ざっくばらんな人よりも穏やかな人の方が付き合いやすかったのかな、と思っている。
父の2番目のお兄さん、私からすれば下の伯父さんの方。その伯父さんの大学からの友達で、父が昔やってた洋食屋のバイトもカワフチさんの紹介だったらしい。それ位仲が良い、近しい人だったてことな。
来週末、GW最初の土日、子供に会うために東京に行く、その時お線香を上げに行く事は出来ないか、連休の最初なので無理にとは言わないが、と聞かれ、今現在兄の家にお骨を置いている、確認してまた後程連絡させていただきます、と返事をして、電話を切った。まあ余り長時間電話したわけではないのでこちらはそんなに大きな進展はない。人間関係の最低限の確認しか出来てない、って感じ。
今日はもう眠い、疲れたからこれくらいで。
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