第25話 戦い終わって

「ふい~~助かったわい」

「本当ですね。慣れないことは、するもんじゃないです」


 気が抜けて、その場に座り込むロイドとイリス。その横では、エリサがマリーに怪我の状況を聞いている。


「マリーさん大丈夫ですか? 痛むのはどこです?」

「ああ……ウグッ! 傷が深いのは左肩から左胸ね……。肩に入れてた補強材のおかげで、肉はえぐり取られなかったけど……たぶん骨も折れてるでしょうね……」


 金属製の補強の肩当てが大きく切り裂かれ穴が開き、そこから肩から胸まで、深く切り裂かれた深い傷が見える。


 大量の血が噴き出していて、危険な状態だ。神殿の魔法治癒師の所に、緊急搬送しなければならない程の重傷だが、こんな田舎に魔法治癒師などいないので、虎の子のアイテムを使う。


「ヒールポーションCを使います。半分を傷口にかけるので、残りを飲んでください」


 エリサは傷口にポーションをかけ、残りをマリーに飲まさせた。

 『シュワワンッ』と音がして、深かった傷が、見事にきれいに治っていく。


「うぐっ! ふう、ありがとう。ヒールポーションCって、高いのに、ごめんね?」


「問題ないです、非常事態でしたから」


 マリー達が、貧乏なだけで、実はヒールポーションCは、『安くて傷治しの効果が高い』と評判の品。さっきまで、息も絶え絶えだったマリーが、すっくと立ちあがり、肩をグルグルと回しているのだから、その評判通りの品である。ちなみにヒールポーションCは、1本で5万CP。


「それに、我々はグリフォンを倒しました。剥ぎ取りの分け前で、その五分の一を貰うとしても、十分、儲かります」


 グリフォン1体で、平均250万CPの素材が取れると言われている。5人で均等割をしたとしても、50万CPはある。二人とも平静を装っているが、高額の臨時報酬で、頭の中では小躍りしてるだろう。


「それよりも、マリーさん。ロイドさんとイリスさんに、感謝してくださいね? お二人がいなかったら、今頃、私たちグリフォンの下敷きですよ」


 エリサはそう言ってマリーに促した。マリーは、二人に向き直り頭を下げる。


「ロイドさんイリスさん、二人が居なかったら、今頃、私たち死んでたわ、助けてくれてありがとう」


「よせ。ワシはロリスを助けに来ただけだ。お前らを助けに来たんじゃない」

「僕は、父さんの付き添いで来ただけですから。ま、何にせよ、皆が無事でよかったです」


 照れて、そっぽむくロイドと、安堵の溜息をつくイリス。


 そこに、一通り喜び終えて、頭が冷えたロリスが、慌てて走ってやってきた。冷静になったことで、マリーが急に心配になったらしい。


「マ、マリーさん。大丈夫ですか?!」


「遅いよロリス! 手を上げて無事は知らせたけど、歩けないほどの傷を負った仲間がいるのに、一人で喜んで、叫んでるって、どういうつもり!」


「す、すいません。つい……」


 そのまま、しばらくエリサに怒られたロリスは、ペコペコと頭を下げ続ける。そんなロリスに助け舟を出すマリー。


「エリサその辺にしときなさい。皆、無事だったんだからいいでしょ? それにグリフォンに勝てたのは、ロリスのおかげだから。その大きすぎる戦功からすれば、一人で喜ぶのも当然の権利よ?」


「まあ、マリーさんがそう言うなら……」


 先輩風を吹かせていたエリサだったが、 これからの事を考えてか、渋々引き下がったエリサ。

 エリサの説教から解放されたロリスは、『ホッ』と一息つくと、ロイドとイリスを見た。そして、喜びと怒りが入り混じった表情で、二人を𠮟りつけた。


「父さんもイリスも危ないだろ!? なんで来たんだよ?」


 ロリスの言い分に、『カッ』と目を開き言い返すロイド。


「何言ってる! 息子が死地に向かったんだぞ? 助けない親がどこにいる? 大体それが嫌なら、ワシの言いつけを守って、家で農業やってりゃ良かったんだ!」


『フン!』と顎をしゃくるロイド。


「ホントですよ兄さん。勝手に山狩りに参加して、グリフォンを手負いにして、『責任取って死ね』と言われ、村八分にされた結果、グリフォン倒しちゃうって何ですか? 家族に心配かけたくないなら、家に大人しくいて欲しかったですけどね?」


 ロイドとイリスはそう言うと、顔を見合わせた。

 そして、嫌みたっぷりに、ため息をついた。


「「はあ~~~~~~」」


 ロリスは、そんな二人に反論できず、何も言えなくなったのだった。



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