第26話 父と息子

 「ロリス、そろそろ素材の剥ぎ取りに行こうか?」


「剥ぎ取りは冒険者にとって必須の技術よ。今回は特別に、私が手取り足取り教えてあ・げ・る」


 エリスとマリーに誘われ、グリフォンの剥ぎ取りに向かおうとしたロリス。

 冒険者としての道を進み始めようとする息子を目の当たりにし、ロリスを呼び止めるロイド。


「えっ? 何、父さん?」


 ロリスが振り返り、その場で立ち止まる。


「先に行っているわね?」

「冒険者を辞める気なら、早めに言ってよね?」


 親子の濃密な話が始まりそうな雰囲気に、マリーは察して、エリサは察した上で嫌みを追加してその場を離れた。


 感謝の会釈をしたロイドは、戻ってきたロリスの目をジッと見て問いかける。


「ロリス、お前はまだ冒険者になりたいのか?」


 ド直球な質問に、ロリスは一瞬身構えた。

 しかし、いつもなら怒る父が、冷静に問いかけている。

 父親の本気度が分かり、ロリスは決意を新たに宣言する。


「オレは冒険者になる。ずっと憧れだった母さんに追いつく為にも、もう一度挑戦したいんだ」


 真剣な眼差しで父ロイドを見つめ返すロリス。

 ロイドはその眼差しをしっかりと受け止めた後、小さく息を吐き、下を向いた。

 そして、もう一度顔を上げ、しっかりとロリスの顔を見て言った。


「わかった、お前はお前の道を行け。ダメなら帰ってくればいい」


「うえっ?」


 父の言葉に一瞬、戸惑うロリス。


「それって、冒険者になることを許してくれるってコト?」


「ああ、昨日の晩、村のクソ共の為に『命を懸ける』と言ったお前の決意を聞いた後、イリスと話し合って決めたんだ。お前が生き残ったら、『好きな事をさせてやろう』とな」


『そう、兄さんが可哀そう過ぎるからね』とイリスが付け加える。


 二人の言葉に、ロリスの心の中の冷えた塊が溶け落ちていく感じがする。

 特に父からは、何かもっと冷たい『もう戻って来るな!』という言葉が返って来ると思っていた。


「ありがとう、父さん! ありがとう、イリス。オレは頑張って、母さんに負けない冒険者になる!」


 ロリスは二人に深々と礼を言う。

 それに対し、寂しげな笑顔を浮かべる父ロイドと、下手くそなウインクをするイリス。


「ただな? お前があの母さんに追いつくのは大変だぞ?」

「知ってる。確か、S級冒険者だったよね?」


 ロリスが覚えている母の顔は、とても美人で若々しかった。年を重ねても冒険者を続けている気はしていた。


「ああ、農場で出会った当時はそうだった。だが、今は知らん。古の一族エルフだから、まだ現役でやってるだろうが、もしかしたらまた気まぐれで『引退』してるかもしれん」


「「んん??」」


 父の側にいたイリスとロリスの声が重なった。そして、間髪入れずに2人が共に大声で叫ぶ。


「え! 母さんって、古の一族エルフなのか!!」

「そんなの聞いてないよ! どういうこと!?」


 2人は興奮して父ロイドに詰め寄る。

 その兄弟の声を聞いて、『何かあったのか?』と顔を見合わせ、様子を見に戻ってくるマリーとエリサ。


「待て待て、ちゃんと話すから落ち着け!」


 ロイドは迫るロリスとイリスを両手で押しのけて引き離す。


「うっ?」「ぐっ?」


 2人を何とか宥め、落ち着かせたロイドは、すぐさま母の昔話を始めた―――

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