第24話 勝利へ

 クチバシを開いたままのグリフォンが、目を血走らせて激しく頭を振りながらロリスに突っ込んでくる。


「ピィーギャァァァァァァアッ!」


 その様子は、怒りや悲しみ、呪いを一身に受け、それをロリスにぶつけるつもりの捨て身の暴走にみえる。


 ロリスは、次の攻撃を確実に当てるため、軽くて扱いやすい片手斧を両腰から抜いた。『どちらかは当たるだろう』と考えた上での戦闘準備だ。


「援護するわ!」


 『ここが勝機!』と飛び出すマリー。


 エリサは『マリーさん! まだ早い!!』と彼女を止めようとする。しかし、マリーはすでにグリフォンに向かって走り出していた。


 ただ、とにかくロリスを殺すことしか頭にないグリフォンは、全くマリーに気づかない。このままいけば、ロリスとマリーでグリフォンを、上手く挟撃できると思われた、しかしその時、激しく興奮するグリフォンが体勢を崩した。低木に前足を引っ掛けて前のめりにダイブする。


ドガッ! ズシャアッ! ザザザザッ!


「ヤバッ!」


 マリーは、咄嗟に右に避けた。しかし、グリフォンは後ろ脚で跳び上がり空中で右羽を羽ばたいて体勢を立て直す。そして、左斜め前にいるマリーの方向に宙返りし着地して止まったそこは、運悪くマリーの目の前だった。


「ピイイッ!」


ガガカッ!


 目の前に現れた人間を、反射的にクチバシでつつくグリフォン。


「ガハッ!」


 ガードする間もなく吹っ飛ばされるマリー。


「「マリーさん!!」」


 マリーを心配し、声が重なるロリスとエリサ。

 ロリスはグリフォンの気を引く為に慌てて走り、エリサはマリーの元へと向かう。その時、エリサを追う二つの影が現れた。


「うおおおおおおっ!!」


 ロリスはグリフォンの気を引くため、雄たけびを上げながら、その背中に切りかかった。


「ガアッ!?」


 スカッ! スカンッ!


 しかし、その雄たけびに振り向いたグリフォンにより、2発ともかわされた。


「ピガアッ!」


「ぐあっ!」


 間髪入れず、ロリスをつつくグリフォン。ロリスは10メートル程、後ろに弾かれたように見えた。


「ぐっ! くそっ!」


 攻撃を受けた瞬間、上手く後ろに跳んでダメージを軽減したロリスは素早く立ち上がる。心配してマリーを見れば、マリーを守る壁のようにエリサがグリフォンに向いて立ち、ここにいるはずのない、ロリスが良く知る男二人が、一人で歩けないマリーを抱きかかえて森へと退避しようとしている所だった。


「えっ! ウソだろ! イリスに父さん! 何でいるんだ!」


 その声にグリフォンが反応し、マリーがいる方向へと体の向きを変えた。そして、首を回してロリスを振り返り『ニタァ』と笑った。


 上位の魔物は人の言葉を理解すると言われる。ロリスが『父さん』と言ったのを聞いて親だと認識したのだ。

 グリフォンは再びマリーの方へ顔を向けると、そこにいる四人に向かって走りだした。


「くそっ! 待てっ!」


 全力で追いかけ始めたロリスだが、また低木ていぼくが邪魔をする。低木を気にもとめないグリフォンには到底追いつかない。

 ロリスは、手に持っていた2つの片手斧を次々とグリフォン目掛けて投げつけた。しかし、相変わらずのノーコンで2つの片手斧はそれぞれあさっての方向に飛び出す。


「くそっ! もう一発だ!」


 そう言ってツルハシに手をかけようとした時、ロリスの耳元で『サワサワ』と風のつぶやきが聞こえた。


(サワ……手伝ってあげる……)


『えっ? 何?』と、ロリスが思った瞬間、2つの片手斧が、グリフォンに向けて急激に曲がり加速した。そして、その首と左後ろ足にぶち当たる。


スパン! ズパンッ!


 ズン! ジュザザザザー!


 グリフォンの首と左後ろ足はきれいに切断され、グリフォンは地面に崩れ落ちる。走っていた勢いで、残された胴体が滑り土煙を上げて、低木ていぼく幾本いくほんか弾き飛ばしてから停止した。

 モクモクと上がる土煙と、グリフォンの胴体がブラインドになって、四人の安否はわからない。


「みんな! 無事か!!」


 ロリスは、思わず大声を出した。

 そこに、突然風が吹き土煙を吹き飛ばす。そして、土煙つちけむりが消えた後には土埃つちぼこりまみれでグリフォンの胴体の前に立つ四人の無事な姿があった。


「おおっ! 無事だった。よかった……」


 軽く手を上げて無事をアピールする四人を確認すると、疲れ切った顔でしゃがみこむロリス。しかし、次第に顔がほころび始め、小さく体の前でガッツポーズをした後、震わせた両こぶしを天に突き上げて大きな声で叫んだ。


「いよっしゃあぁぁぁ!!」


 この戦いにより、グリフォンは倒された。ロリスは仲間と家族、そして街道を行き交う人々を守った。そして、ついでにまで守ることに成功したのだった。

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