第23話 グリフォン

 大きく振りかぶったツルハシと片手斧は、それぞれ羽根と背中に渾身の一撃を喰らわせるはずだった。しかし、ロリスの掛け声に反応したグリフォンが振り返り、体の位置がズレため、ツルハシと片手斧は地面に突き刺さる。


 ドバガンッ!!


 地面には大穴が空き、石や土、低木の木片や葉が周囲に飛び散った。

 グリフォンは、土くれや石を全身に浴び、さらに折れた低木の枝が羽の間に突き刺さり、ようやく後方に敵がいることを認識した。


「クウェェェイッ!」


 雄たけびを上げて羽を広げ、水平に半回転するグリフォン。


「グハッ!」


 ロリスは、その羽の打撃を受けて転倒した。


ザンッ!


「ガアッ!」


 続けざまに左前足で踏まれ、ダメージを受けるロリス。


「くうっ!」


 ロリスは後転して何とか立ち上がった。普通の人間なら大ダメージである。今の攻撃で勝負がついていたことだろう。


 ただロリスには鍛えた筋肉があった。その筋肉が自然にダメージを軽減し小ダメージに留めたのである。


 グリフォンは首を傾げた。『ナゼ?動ける』と思ったかどうかは定かではないが、動きが一瞬止まった。その時、森から声がかかった。


「ロリス! 援護する!」


 ビュッ! ビュッ!


 暗い山の斜面に響く弓音が二つ。


トッ! ガスッ!


 下半身の獅子の背中と尻に刺さる2本の矢。


「ギャギャッ!」


 弓矢攻撃を受けた森の方角に体を振り向けたグリフォン。土くれを飛ばしただけのロリスよりも、後方の敵を脅威と感じたようだ。至近距離のロリスを無視して森の方向を注視している。これは、ロリスの顔を視認できていないおかげだろう。顔を視認すれば怒り狂ってロリスを集中攻撃するはずである。


「くそっ! 今度こそ!」


 ロリスは大振りにならないように、片手斧を肩まで振り上げた。しかし、力んで手を滑らせる。片手斧は白々と明るくなってきた上空高くに飛んでいった。


「しまった!」


 思わず出た大声に反応するグリフォン。その目に映ったのは、自分の右足を奪い、そのくちばしに片手斧という楔を打ち込んだ憎き人間の顔だった。


ギィギャグェェェオオッウガァアアッ!!


 すさまじい怒りの雄たけびを上げて、空に飛び上がるグリフォン。

 上空ですぐさま羽を閉じ、錐もみ状態で回転しながらロリスに突っ込む。


「がはぁっ!」


 避け損ない、弾き飛ばされたロリスは、ゴロゴロと地面を転がった。


ドザンッ!


「ぐあっ!」


 ロリスは低木に突っ込んで何とか止まった。


「くっ、まだっ……」 


 錐もみ攻撃はグリフォンの攻撃の中でも最大級。またまた筋肉のおかげか通常の半分のダメージで済んだロリスは何とか立ち上がる。

 ただ、立ち上がったといっても、なんとか動ける程度で、ピンチなことに変わりはない。


 一方、グリフォンの方は勢い余ってヒナの近くに着地した。

 攻撃の手ごたえは十分で、『敵の受けたダメージはどのくらいだろう』と振り向いた時、それは起こった。


キランッ!!


 上空で朝日に照らされた何かが光った。そして次の瞬間、その何かがグリフォン目掛けて落ちてきた。


ヒィィィィン!


 先ほど上空高く舞い上がった片手斧が加速して落ちてきたのだ。そして、それは自動追尾魔法のように狙いすまし、を描きながらグリフォンの左羽を切り落とす。


ギュン! スパッ! ドーン!!


「ギャヒィィィィィッ!!」「ピギーッ!」


 周囲に響くグリフォンとそのヒナの鳴き声。

 片手斧は、グリフォンの左羽を落とすと同時に、ヒナの胴体に風穴を開けた。力を失い倒れるヒナを見て、血を噴出させて逆上するグリフォン。

 その場で地団駄を踏み、ヒナを踏み潰している事にも気づかない。


 そのままグリフォンは、血を振りまきながら、ロリスに向かって突進をした――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る