第20話 悪い心の持ち主

 一生懸命、本部テントからロリスを追いかけたが、姿が見えず諦めて、街道を歩きだしたマリーとエリサ。マリーの横を歩くエリサは、マリーが先ほど思いついたことを、正しく推測し問い詰めた。


「マリーさん、ダメですよ。私たちには貴族護衛の仕事があります。グリフォン討伐を手伝うぐらいはいいですが、ロリスと一緒に逃げるのはダメです」

 

 マリーの考えを見抜いたエリサ。マリーは『見逃して』とエリサに懇願する。


「そこをなんとか! ロリスを逃がしてから、村に戻り、貴族護衛の仕事に戻ればいいでしょ?」


 マリーは胸の前で両手を組み、祈るように頼む。


「いや、それだと護衛再開の時に、グリフォンが街道の人々や馬車、村を襲い始めますよ。それで護衛対象のストラお嬢様を殺されたら、隣国の依頼主であるルーリス家主人に一生命を狙われることになりますが、それでもいいですか?」


「それは……嫌だな……」


 素直な感想を吐露するマリー。そして少し悩んだ後、エリサに何か策があるかを聞いた。


「……じゃあ、どうするのよ?」


 そのマリーの質問に、丁寧に答えるエリサ。


「いいですか? グリフォンは手負いです。しかし、前足切断程度では5日ほどで行動を再開するでしょう。これでは、隣国に向かう私たちの馬車が襲われる可能性があります。ですから、隣国リンキンに逃げ込むまでの期間、巣から動けない程のダメージを追加できるるように、私たちでロリスを手伝います」


「なるほど、良い考えね。ただ、それは相手が弱かったらの話。最上位魔物のグリフォンでは、追加ダメージを与えるのは苦しくない?」


「もちろん、楽観は出来ません。ダメージを与える役を素人が担うわけですからね。でも、ロリスなら前足を一刀両断する凄い筋力を持っている。攻撃さえ当たれば『追加のダメージ』は余裕でクリアするでしょう。サポートする価値はあります」


 『追加のダメージ』をどれほど入れられるか? 相手はグリフォン、今のマリー達では蚊が刺すほどのダメージしか入らない。大きなダメージの追加は、ロリスに頼りきりになる。


「そりゃ、失敗ならすぐ逃げますよ? ロリスには森に隠れてもらって、夜にでも迎えに来ましょう。我々は道中グリフォンに狙われないことを祈りながら、馬車を走らせる事になるでしょうが」


 失敗した時、エリサにロリスを迎えに来る気はなかった。だが、あの村人たちの話を聞いた今は、『なんとか助けよう』と思っている。


「まあ、成功すれば、ストラお嬢様と、ロリスを村から上手く脱出させられます。この方法なら、双方が脱出した後、グリフォンがどう動いても、こちらには関係ありませんから」


 暗に、村がグリフォンに『つぶされてもいい』と言っているエリサ。先ほどの村人の言いように、腹を立てたのはマリーだけではない。


「意外に、考えが黒くて悪いわね、エリサ」


「いえいえ、マリーさん、違いますよ? 心が黒くて悪いのは、あの村人たちです」


 エリサの指さす先には、ランデ村の門が小さく見えている。二人は街道で目くばせをし合って、『ニヤリ』と笑い合った。


 

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