第18話 カギ爪

 低木に身を寄せ、じっと動かずにグリフォンを見つめるロリス。


『バフォウッ! バフォウッ!』というグリフォンの羽ばたきの音が大きくなり、ロリスの頭上をグリフォンが通り過ぎようとする。


 ロリスは(よし、そのまま……)と心の中でつぶやいた。


 グリフォンが頭上を通りすぎる瞬間、ロリスが少し首を動かすと、それに気づいたのか、グリフォンも進行方向を見ていた首を動かし、ロリスの方を向く。


『ギロリッ』


 グリフォンとロリスの目が合った。


「ヤバッ!?」


 ロリスは、すばやく立ち上がり、森に向かって走りだす。

 グリフォンは素早く急上昇し、上空で反転して急降下しながらロリスに迫る。

 森に急ぐロリスに、迫るグリフォンのカギ爪。


「くそう! 間に合わない! このままでは、やられる!!」


 森の入り口までは、距離がまだ少しある。ロリスは、時間を稼ぐ為に腰につけていた片手斧をグリフォンに投げつけた。


「ビイイイイインッ!」


 キラー・ビー《超大スズメバチ》の羽音のような甲高い音を響かせて、あさっての方向に飛び出した片手斧。すごい威力を持っていそうではあるのにグリフォンから逸れていく。


 一瞬、空中で羽ばたきブレーキをかけたグリフォンだったが、全く関係ない方向に飛び出した片手斧に安心したのか、羽を閉じ再びロリスに向かって加速した。

 しかし、その片手斧はグリフォンの視界の外から急激にカーブし、まるで自動追尾をしているようにグリフォンの前足をとらえた!


チジュッン! ザン! ガスン!


 激しい音と共に、グリフォンの右前足が切断され、前方の森に向かって勢いよく吹っ飛ぶ。

 そして、その前足を切り落とした片手斧は、また急激にその飛ぶ角度を変えて、グリフォンの下クチバシに突き刺さった!


「キギュアアアッ!!!」


 空中でのけぞり、急上昇したグリフォン。そのおかげでロリスとグリフォンの距離は離れた。


「いまだっ!!」


 その隙にロリスは、全力で森に逃げ込む。


 ザザザザッ! ザンッ!! ゴロゴロッ! ドシャンッ!


 木々の間の草藪に飛び込み、突き抜け、地面を転がり、大木にぶち当たって止まったロリス。


「キシュアッ! ギギャアッ! グギャアッ!」


 森の上空では怒るグリフォンの声が響く。


 「フウ……なんとか助かったか……」


 ぶつかった大きな木の幹にもたれかかりながら、その根元に座り込んだロリス。少しの間、下を向き、助かった幸運を神様に感謝する。

 そして、少し落ち着いた後、顔を上げて前を見ると、さっき吹っ飛んだ、グリフォンの右前足が落ちているのに気づく。


(あれは、さっき切り落としたグリフォンの足? 大事な証拠品だ、本部まで持って帰らないと……)


 ロリスは、上空のグリフォンに見つからないよう、注意しながら立ち上がり、グリフォンの右前足をヒョイと担ぐ。


 グリフォンの右前足は、猛禽類と同じカギ爪状で、人間の同体をひと掴みにできるほどの大きさだが、ロリスは『重い』と感じないのか、気にもとめない。

 帰ろうとしたロリスが、おそるおそる木々の間から上空を覗くと、グリフォンは、まだ怒りの叫びを上げながら旋回していた。


(これは、山道に出るのは危ないな。かなり遠回りになるが森の木々の中を縫うように帰ろう)


 ロリスは、木々や草葉にその姿を紛らわせながら静かに山を下って行った。

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