第17話 山頂にいたもの
過去十五年間、山の開墾を続けてきたロリスにとって、この山の頂上まで登る事は容易だ。
普通の村人が半日かかるところを、彼はわずか一時間で登る。
頂上まで行って帰るのに二時間、いや、帰りはスピードアップするから、合計一時間半しかかからない。戻ってから痕跡調査を再開しても、遅れは『十分挽回できる』とロリスは考えていた。
「ヨッ! ハッ! ホッ!」
ロリスは快調に山を登っていく。巨大な岩を素早く登り、大木の間をすり抜け、沢を越えていく。
しばらくそうして山を登り続けると、突然、目の前が開けた。
「おっと、この辺りから高い木がなくなるな? なるべく低い木に添って歩き、姿を隠して頂上に向かおう」
標高が高くなると、低い木ばかりになる。何かが頂上にいれば、見つかる可能性が高い。姿を隠しながら進むのが重要だ。
ロリスは、隠れながら歩くついでに、何か痕跡がないか調べ始めた。ブラッドウルフがこの辺りを住処にしていたはずだが、その痕跡は古いものばかりで、新しいものが見つからない。
そんな中、真新しい茶色の大きな羽根を見つける。
『こ、これは?!』と驚いた瞬間、『ピイイイイイッ!』という鳥の鳴き声が聞こえた。
「後ろから何か来る!」
ロリスは、慌てて低い木の横にしゃがみこんだ。そして、鳴き声のした後方を木の葉の間から覗き見た。
大きな鳥が飛んでくるのが見えた。ワシかタカか? かなり大きい。
「落ちてた羽根からすれば大鷲か? いや、ちょっと待て、あ、あれは! グ、グリフォン?!」
鷲の体に獅子の体を持つグリフォンは、この山地では最上位の魔物であり、A級魔物とされる。個体数が少なく、普段はもっと山奥に生息しているため、人の目に触れることは少ない。そのため、伝説の魔物とも呼ばれる。
「あんな強い魔物に見つかるわけにはいかない」
ロリスは『逃げなきゃ』と思った。しかし、今は動けない。今動けば、グリフォンの進行方向先にいるロリスは、格好の的になる。
(よし、頭上を通りすぎた後、山を一気に駆け下りて、後方の森に逃げ込もう)
森に逃げ込めば、大きなグリフォンは入ってこれない。しばらく森に居座れば、グリフォンも諦めるだろう。
ロリスは、隠れたままグリフォンから目を離さないようにした。いつでもタイミングよく飛び出し、森まで逃げ切るためだ。
バフォッ! バフォゥッ!!
グリフォンの羽音がさらに大きくなり、姿も大きくなった。
「ピイイイッ! ピイッ!」
頂上の方から何かを呼ぶかのように鳴き声がした。振り向くと、50メートル程前方の低い木の陰から、グリフォンの幼鳥が顔を出していた。
「まずい!」
この状態では、まるでロリスが卵泥棒、いや、ヒナ泥棒に見える。グリフォンに見つかれば、ロリスを執拗に追いかけてくるだろう。
(森に逃げ込むぐらいじゃ、グリフォンは諦めないかもしれない)
ロリスは見つからないようにさらに低い木に身を寄せ、木と同化しようとした。
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