第16話 山狩り

 次の日、朝からシルバーベアの山狩りが始まった。本部テント前に集合したのは20名で、雑用をこなす老人を含めると30名になる。これは、村の人口の約三分の一にあたる中規模の山狩りだ。


 この山狩りでは、相手がB級魔物シルバーベアであるため、追い落とし猟を行うことになっている。

 山に掘られた狩猟用の落とし穴までシルバーベアを追い込み、追い落として討伐をする予定だ。


 基本的な行動は以下の通り。

 まず、先頭の猟師が痕跡を追跡する。そして、目標のシルバーベアを発見したら、人間だけに聞こえる【呼子】ホイッスルで他の組に場所を報告する。


 その場所に盾持ち槍持ちが10名以上集まったら、次に盾持ちと槍持ちが前面に出て、シルバーベアを近くの落とし穴まで誘導して追い込んで行く。


 最後に、皆で協力して魔物を落とし穴に落とし、穴の上からシルバーベアを一方的に攻撃して討伐する作戦だ。


 ロリスは、盾持ち槍持ちの攻撃部隊ではなく、猟師隊に配置された。

 彼は足腰が強く、魔物や動物の痕跡にも詳しいため抜擢されたのである。



 山狩り第一日目は、猟師隊がシルバーベアの痕跡を追尾し、居場所を絞りこむことが第一目標である。


 早速、猟師5名とロリスは二人ずつ三組に分かれ、シルバーベアの痕跡を求めて山地を捜索し始めた。

 

「ロリス! 速い! 速いよ! オレ、お前の足についていけねえ!」


 開始早々にスイスイと山を登るロリスに遅れを取り始めた猟師アランが叫ぶ。


「じゃあ、誰かオレについてこられる奴と交代してくれ! しばらくは、オレ一人で大丈夫だ!」


 山でのロリスは、体力自慢の若者も顔負けする体力を誇る。アランは素直にロリスの提案に従った。


「わかった! 誰か足の速いやつと交代してもらうよ!」


 アランは斜面を駆け下り、本部テントに戻っていった。その間、ロリスはシルバーベアの痕跡を追い続ける。


 シルバーベアの行動範囲は普通の熊に比べて狭いが、この山全体に及ぶ。それにもかかわらず、この人里に近い低標高の地点に新しい痕跡が集中していた。まるで、この人里に近い所に押し込まれているように。


(なんか変だな?)


 疑問を感じたロリスは、さらに細かく痕跡を調べていく。

 すると、ゴブリンにオーク、そしてシルバーベアよりも高所を好むブラッドウルフの最近の痕跡まで見つかった。


「こんな低い所に魔物が集まってるなんておかしいぞ? まるで、高い所から逃げて来たみたいだ……」


 ロリスは腕を組み下を向いた。


(この山でランク最上位の魔物であるB+級魔物のブラッドウルフが下りてきたから、他の魔物も追われて低い所に来たのか? なら、そのブラッドウルフをこの山の頂上から排除したのは何だ?)


 そこまで考えたロリスは『ハッ』と気づいて顔を上げた。


 「魔物たちを人里近くに追いやった強い何かがこの山の頂上にいるんだ」


(そいつを何とかすれば、魔物は元の住処に戻るだろう。そうすれば、街道に魔物が出没することも、無くなるはずだ。)


「よし! 何事も予想だけでは事が進まないからな。ここはまず何がいるのか、それともいないのかを確認しよう。ここでしっかり事実を確認し、ちゃんと報告して、オレの分析、判断、実行の能力をマリーさん達にアピールするぞ!」


 ロリスは意気込み、痕跡追跡を中断して頂上に向かって山を登り始めた。

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