第15話 ロリスの決意

 その日の帰り道、ロリスは山を下りながら、何度もため息をついていた。


「はぁ……」


 彼の頭には昨日の出来事が浮かんでいた。


『そのツルハシを貸してくれ!』

『受け取れ!』


 頭の中にその時の声が響き、ロリスは『ブオンッ!!』とツルハシを振りながら、ニヘラと笑った。


「あ……」


 しかし、周りを見て恥ずかしくなり、再びため息をついた。


 昨日村に帰った後、マリーとエリサは護衛する貴族との話し合いのため、宿に入ったっきり出てこなかった。

 ロリスは冒険者パーティーに誘われることを期待したが、心の中に封じていた。

 そう、今日の朝が来るまでは。


 今日の朝、マリーとエリサが彼の自宅に現れた時、ロリスは再び期待を抱いた。その日一日、彼は仕事中も休憩中も昨日のことを思い出し、ツルハシを振り、ニヘラと笑い、ため息をついた。


『ああ、オレは何をしてるんだろう? まだ、何も起きてないのに……』と自問自答するロリス。彼は頭を横に振って忘れようとしたが、またすぐ思い出し、『ブンッ』とツルハシを横に振るのだった。


 そんな彼がが自宅近くに着くと木陰から人が現れた。


「お帰りロリス」


「あれっ? マリーさん、まだウチにいらしたのですか?」


 ロリスは内心ドキドキしていたが、それを隠し平静を装う。


「山狩りに参加する代わりに、宿を借りに来たのよ」


「ああ、なるほど村長のアレですね」


 ロリスは、父ロイドが助っ人冒険者に宿を提供する約束をしていることを知っていた。


「ええ。ついでに色々イリスから話を聞けたわ。そして、あなたの事を頼まれたの。それで、ロリスに言いたいことがあるのよ」


(お? もしかして?)


 マリーのちょっと遠回しな言い方に、ロリスの期待が高まる。


「ロリス、期待や憧れだけでは冒険者になれないのよ。自分自身に自信を持てず、受け身になっているなら、冒険者は諦めなさい。『どうしてもなりたい!』という気持ちを見せてくれなきゃ誘えないわ」


「えっ?……」


 ロリスは驚いた。彼は昨日の一件で冒険者としての力を示せたと思っていた。しかし、マリーの言葉は彼の期待とは正反対だった。

 ロリスは落ち込んだ。そんな『甘い気持ちがある限り冒険者は無理だ』とマリーは言いたいのだろう。


 ただ、シルバーベアを追い払った事で、昔の失敗を引きずっていた思いが薄くなり、初心を思い出し、自信が復活していることに、ここで気づく。


(大丈夫だ。自信はある。)


 ロリスは、マリーをまっすぐ見据え、『オレは冒険者になれる! いや、なる!』と宣言した。


 そのロリスの答えを聞いて、嬉しそうに大きく頷いたマリーは、一つの提案をした。


「わかったわ。なら、明日から始まるシルバーベアの山狩りに参加しなさい。そこで、その自信が本物か見せてもらうわ。ちゃんと本物なら、パーティーの新人として、冒険者ギルドに登録する」


 そのマリーの言葉に奮い立つロリス。


「ようし! 実力を見せればいいんだな? よし決めた! オレは、山狩りに参加して、パーティーメンバーになり、冒険者試験に再挑戦する!」


 彼は意を決し宣言した。それを聞いて、ニンマリと笑みを浮かべるマリー。道端の大きな木に向けて声をかけた。


「エリサ! 今の聞いたわね! あんたが言った通りに、障壁を作ったけど、ロリスは乗り越えた! ロリスのパーティー参加を認めなさいよ!」


 それを聞いて、木の陰から渋い顔をしながら道に出て来たエリサ。


「はいはい、私の負けです。パーティーに男が入るのは嫌ですが、約束ですから仕方ありません。ただ、まだ結果を残してませんからね? ロリスが山狩りで、本当に結果を出したら認めます」


 不承不承といった感じのエリサ。

 一方のマリーは、もう決まったとばかりに意気軒高だ。


 こうしてロリスが、山狩りに参加することが決まった。

 ただこの時、近くの藪からその様子を見つめる影があったことをロリスたちは知る由もなかった。

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