第13話 ロリスの過去
イリスが客間を後にしてからしばらく経ち、クッキーもなくなり、お茶も飲み干された。何もすることがなくなったマリーとエリサは、部屋に飾られた絵画を眺めたり、窓から庭の向こうに広がる畑を見たりして時間を過ごしている。そこへ、申し訳なさそうに腰を低くしてイリスが部屋に入ってきた。
「すいません。お恥ずかしい所を見せてしまいました」
イリスはロッキングチェアをどけて普通の椅子に座り、マリー達もソファに戻った。
「最近、父が疑心暗鬼で、さっきのような
深いため息をついたイリスに、家族のことで聞きづらいと感じつつも、気になるマリーはロリスの過去について尋ねた。
「えっ? あっそうですね……非は無いのに。怒られ、父の
一瞬戸惑ったイリスだが、二人には知る権利があると考え直したのだ。
「実は兄は昔から冒険者に憧れを持ってまして、15年前に家出して、領都の冒険者ギルドに冒険者試験を受けに行ったことがあるんです」
「えっ、本当なの?」
「へぇ~? 確かにそんな奴、たまにいるけどね」
興味を持ったマリーと、それほどでもないエリサ。
「ええ、そうなんです。でも結局、農耕でつけた筋肉も不器用さに勝てず、能力を発揮できませんでした。頼みの未確認スキルも役立たずで、半年後には試験不合格で帰ってきましたけどね」
模擬戦闘でダメだったり、半年間の見習い中に未確認スキルがレベルアップせず、不合格を言い渡されることはよくある。
「まあ、その家出自体はどうでもいいんですが、問題は『冒険者を目指した』という点で、これが父の怒りの原因で……それというのも、私たち兄弟の母が冒険者である事が関係してまして……」
「もしかして、あなた達の母親が『冒険者に戻りたい』とでも言って出て行ったとか?」
「……」
イリスは黙り込む。マリーの推測は図星だったようだ。
「良くある捨てられた男のいじけてる反応ですかね。『ワシを置いて出て行った奴と同じ職にはならせない!』という感じですかね」
エリサは復讐を必ずするタイプのようだ。ここにロイドがいなくても、皮肉を忘れない。いじけてるは、ロイドに対する復讐の言葉だろう。
そして、エリサの言葉によって吹っ切れたイリスが話し始めた。
「そこまではっきりと言われると思いませんでした。でも、その通りです。父はその歪んだ感情で兄に罰を与えました。農場で一番の重労働、開墾を兄一人に押し付けたのです」
「なるほど、それでか。15年も開墾やってりゃ、あの体になるわね」
マリーは腕を組み納得する。
「確かにそうですね、でも、ロリスは途中でやめることができたはずです。それでも続けたのは、彼がとてつもないバカ真面目な性格であるとの証明でもありますね」
「やめなさい、エリサ」
空気を吐くように今度はロリスの嫌みを吐き、横からマリーに小突かれるエリサなのだった。
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