第11話 ロリス父と弟イリス

 玄関前で、マリーとエリサから受け取った紹介状を確認するロリスの父、ロイド。


「フン、村長め、勝手なことを言いおって」


 文句を言いながら、紹介状をポケットにしまい、二人をジロリと見た後、声をかけた。


「話はわかった。部屋は貸してやるが、中には物を壊す奴もいるのでな。契約書にサインして貰う必要がある。とにかく、中に入れ」


  ロイドは二人を玄関横の客間に案内し、自分用のロッキングチェアに座った。彼は机を挟んで自分の対面にある来客用の高級ソファーを指し『あんた等はそっちに座れ』と言った。


(何ですかね? 悪いことでもして稼いだのでしょうか?)

(こら、聞こえるわよ)


 勘繰るエリサを、たしなめるマリー。

 いくら大農場主であっても、平民がこのような豪邸を持っているのは不自然だ。エリサでなくても、元貴族か何かだと勘繰りたくなる。


「おい、聞こえてるぞ。いいか? 内緒話はもっと小声でするもんだ」


「ほら!」

「地獄耳め」


「まったく。これだから冒険者は嫌いだ。こっちは村長との約束があるから部屋を貸してやるんだ、もう少し気を遣え。まあいい、どの部屋を貸すかはこっちの自由だからな。残念だが、あんた等には農業小屋の仮眠室を貸すことが決定したぞ」


 ロイドは悪い笑みを浮かべながら二人を観察する。


「お? 喧嘩売られた」

「まあ、小心者が良くやる仕返しですね」


 マリーとエリサは負けじと睨み返した。


「ほう? さすがは冒険者、気が強い。とにかく、あんた等には農業小屋の仮眠室しか貸さん。それが嫌なら帰れ。どうする? 借りるか、帰るか、どっちだ?」


 ズイと身を乗り出すロイド。マリーとエリサは顔を寄せ合い、相談した後、声を揃えて言った。


「借ります! タダなら万々歳!」


 二人は喜び、ハイタッチを交わす。冒険者に嫌がらせしたつもりが喜ばれてしまった。『チッ』と舌打ちして渋い顔のロイド。この勝負マリーとエリサの勝ちだ。


「フン、仕方ない貸してやる。契約と案内は息子のイリスに任せる。すぐに呼ぶから、部屋に来たら聞け」


パンッパンッ


 ロイドは二回手をたたくと、おもむろにロッキングチェアーから立ち上がると、部屋を出ていった。ただ、それと入れ替わるようにロリスと顔が似ている若い男が入ってくる。


「あっ、父がすいません。いつもあんな感じなので……」


 男は二人に謝った後、手に持った書類を机に置きロッキングチェア横の小机からインクと羽ペンを取り出して机に置いた。


「え~、初めまして。僕この家の次男のイリスです。契約書を持ってきましたので、サインと冒険者ギルド証の提示をお願いします」


 イリスが書面を指し示し説明すると、二人は契約内容を確認し、ギルド証を提示してサインをした。イリスが所属ギルドと名前を確認し、契約は完了した。マリーとエリサは、無事にタダ宿を手に入れたのである。

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