第10話 大農場

 翌朝、マリーとエリサは村長から受け取った紹介状を携えて、村のはずれにあるロイド農場へと向かっていました。


「村長の奴、『宿代を上乗せする代わりにタダで泊まれる農場を紹介する』って言われて紹介状を持たされたけど、こんな村から離れた所に、泊まれる所なんてあるのかな?」


 歩きながら、指でつまんだ紹介状をピラピラと振るマリー。


『本当に農場があるのか疑いたくなりますね? 周りは木ばっかりで、畑なんて見当たらないし』と疑問を投げかけるエリサ。


 ロイド農場の看板を過ぎてしばらく歩いたが、それらしい建物はないので、少し不安になる二人。それでも、宿代がタダなのは魅力的で、気を取り直した二人は木々の間を歩きます。やがて建物がちらりと見え始め、さらに進んで、やっと大きな屋敷が目の前に現れました。


「おお!? あった! 凄い、三階建てだ!」 


 マリーは感服し、その屋敷を下から上へと見上げる。そして、その建物の端にある小さなドアを見つめた。


「あれが玄関か? 屋敷は大きいのに小さいな?」


「マリーさん、それは屋敷の裏口ですよ」


「わかってたわよ。あれが裏口だっ――」

「さあ、玄関はきっと表です。横から回り込みましょう」


 マリーの言葉を遮り歩き出すエリサ。一瞬ムッとしたマリーも、すぐ気を取り直してエリサの後を追う。

 二人が建物を横から回り込むと、広大な農地が広がっていました。


『うわっ、広い! マリーさん、これ全部畑ですよ!?』と驚くエリサ。


「ホントだ! 広い! 向こうの山裾まで畑が続いている」と指さして驚くマリー。


 屋敷前の庭は高台にあり、その高台から山の裾までの間は緩やかな谷になっている。その谷全体が開墾され、果樹園や畑になっていた。


「これだけの広い土地を、開墾するのは大変だったでしょうね」

「そうよねぇ」


 感心するエリサとマリー。二人はしばらくその手作り

の絶景に見とれました。

 その時、二人の後方の屋敷から出てきた男がいた。


「ん? 誰かいる? え? あれは……」


 その男は、マリーとエリサの姿を見つけると声をかけた。


「あ、あの? そこにいるのは、マリーさんと、エリサさんですか?」


 突然の声に二人は驚いて振り返る。


「へっ? あっ! ロリス?!」


「あ、そういうことか。村長がニヤニヤしていた理由がわかったわ。ここは、ロリスの家なのね?」


「あ、はい。オレの実家です。お二人とも、ウチに用事ですか?」


 不思議そうに首を傾げたロリス。その時、後ろからロリスに対して怒声が飛んだ。


「ロリス! 何をしとるんだ! 無駄口叩いてないで、自分の仕事をせんか! 客の相手はワシがする。さっさと山に行け!」


 突然玄関から顔を出した、禿げた爺さんがロリスを叱った。


「わかったよ、父さん。今行くから!」


 ロリスは振り向いて父親に答えた後、 マリーとエリサに『ウチに用事なら父さんに話して。オレは、すぐ山へ行かなきゃならない』と言い残して、その場をゆっくり離れていく。


「ちょっと! ロリス!」


 マリーは慌ててロリスを呼び止めたが、ロリスは手を振りながら屋敷の裏へと消えて行った。

 無言でロリスの消えた方向を見つめる二人に、話しかけるロリスの父親。


「なんだアンタ等? ウチに何か用か?」


 不機嫌を隠さず疑り深い眼差しを向ける、ロリスの父親。

 しかし、二人は明るく笑って『ハイ、村長からロイドさん宛の紹介状を渡されまして』と答えると、ゆっくりと玄関に歩いて行ってロリスの父親に紹介状を手渡した。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る