第9話 宿泊は難しい

 村の唯一の食堂は狭いため、すぐに客で満席になる。しかし、町の居酒屋や他の食堂のように騒ぐ者はおらず、皆が節度を保ちながら食事やお酒を楽しんでいる。外来者のマリーたちは少し騒がしいが、店主は彼らの会話に耳を傾け、腸詰めを半分に切って塩スープに加える気前の良さを見せた


「「ありがとう!」」


 二人はカウンターの向こうにいる店主に手を振って礼をする。

 黒パンと腸詰入り塩スープを前にして、二人は目を閉じて感謝の祈りを奉げ、食事を始める。


「ところでマリーさん。明日からの宿をどうします? この村の宿は高すぎて泊まれないのですが」


 黒パンをちぎりながらエリサがマリーに尋ねる。

 この村の宿自体は普通なのだが、貴族の突然の襲来で宿泊費が急騰した。今日の宿泊費は貴族持ちだが、明日から馬車馬が到着するまでの一週間は、自分たちの費用で一週間過ごさなければならない。

 ここでの余分な出費は控えたいので、村人の家に泊まることができれば理想的だが、中には不適切な行動を取る人もいるため、直接の宿泊依頼は避けたい。

 だから、必要な場合は村長と交渉し話をつけてもらう。そうすれば、まともな家を、紹介して貰えるから安心だ。まあ、村長までグルで、不適切行為が行われた場合は、事後、関係者全員が血を見ることになるが。


「う~ん、そうだねぇ……」


 マリーもその辺は考えている。村人の家は問題が起こりやすいのでできれば遠慮したい。野宿は体に悪いので避けたい。仕事があればその稼いだ金で宿に泊まれるので、仕事を探すのが一番だ。


「領都まで戻ってる時間はないし、この村で仕事を見つけるしかないかな」

 

 しかし、この村には冒険者ギルドも無く、まともな仕事はないだろう。

 マリーの頭には、今日村長から持ち掛けられたシルバーベア関係の仕事が浮かんでいる。 

 エリサも、同じ事を思い出したようで、手で引きちぎった黒パンをスープに浸しながら、マリーに話しかけた。


「昼間、村長から、『シルバーベアを追跡する山狩りに参加しないか』と、誘われましたよね? 新人冒険者に払うような、少ない報酬だったので断りましたが、 宿代、食事代分を上乗せして、再交渉するのはどうでしょうか?」


 スープに浸したパンを口に運びながらエリサが提案すると、マリーは、硬い黒パンを口で引きちぎり、租借も数回でそのパンを無理やり飲み込んで答えた。


「賛成よ! この夕食を食べ終えたら村長宅へすぐ向かおうよ」


 エリスの提案を即決して受諾したマリー。

 二人は食事を食べ終えて食堂を飛び出し、村長宅に急いで向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る