第5話 救助隊の到着

 エリサはロリスの横を駆け抜け、地面に座るマリーの元へと急いだ。


「マリーさん良かった! 無事で何よりです!」


(チッ! 来るのが早すぎなんだよ)


 マリーは内心でエリサの速すぎる到着にイラ立ちを感じていた。


「え? なんか言いました?」


「いやいや、何も?」


 マリーは、本性をロリスに見せぬようふるまう。そのロリスはマリーの剣を持ったまま、村からやって来た自警団員と話していた。


「で? マリーさん、あの剣を持ってるおっさんは誰なんです?」


 マリーの剣を持ち村人と話すロリスを、いぶかしげに睨みながら指差すエリサ。


「バ、バカ! 指差すなんて失礼な! 名前はまだ聞いてないけど、私を助けてくれた恩人だぞ?!」


 エリサがとる失礼な態度に慌てるマリー。


「あのですね、マリーさん? 情報収集は冒険者の基本ですよ? 名前ぐらいは先に聞いてくださいね? まったく……」


 対して、まったく情報収集をしていないマリーに注意するエリサ。


「わかってるわよ! 戦い終わってすぐだから、まだ聞けてないだけじゃないの……」


 それでも下を向き、ゴニョゴニョ言っているマリーに、呆れたエリサは、外見から情報収集をするため、ロリスを見た。


(体は筋骨隆々で若々しいけど、顔はおっさんか、いや濃い顔立ちなのか? 実際には20代かな? まあ、私からしたら20代はどっちにせよおっさんよ。顔は悪くないけど、教祖様にはもちろん負けるわね。あれ? シルバーベアの死体が無い? ということは、山に追い返したのか。二人で協力して追い返せるなら、マリーさんと同じC級冒険者か、それとも、一つ上のB級冒険者かしら? 多分、たまたま通り掛って助けたって所でしょうね)


 次にエリサは、まだ下向いて地面に座り、ブツブツ言っているマリーを見る。


(何だろ? マリーさんの様子がいつもと違う。ガサツで勝気ないつものマリーさんじゃない。もしかしてあの男に惚れた? いやいや、もう年だしやめてよね? そりゃ、古の一族エルフだから、見た目は、まだギリでアラサー。でも、実年齢は70! 私ら十代からしたら見た目おばさんで、事実は衝撃のお婆ちゃん。だから、色恋なんて考えずに私ら教団に協力してもらいたい。おっと、これはまだ言っちゃいけないことだった。とにかく、計画が台無しにならないように慎重にならなきゃ。恋心が覚めるまでは、嫌われないように味方のフリして応援よね? もちろん、バレない程度に邪魔するけど……)


 ジッと考え込むエリサ――




 エリサは、こうして時々考え込む。マリーは、それをよく知っているのですぐには声をかけない。時間があれば、考えがまとまるまで放っておく。


 エリサの思考中に、マリーの所に戻って来たロリスとマリーは簡単な自己紹介をする。男の名前がロリスだとわかり職業も知れたところで、エリサを見るがまだ思考の海から帰ってこない。仕方がないのでエリサに声をかけて現実世界に引き戻す。


「エリサ、起きて! 戻ってきて!」


「へ? あっ! ハイッ!」


 エリサが起こされ気づいた時に、あのロリスが近くに立っていた。エリサは驚いて後ずさる。


「エリサ、この方が私を助けてくれたロリスさん。イイ男でしょ? ほら挨拶して?」


 マリーに促されたエリサは、言われるがまま挨拶した。


「あ、初めまして、私マリーさんとパーティー組んでるエリサです。よろしく」


「こちらこそ。この近くのランデ村で農耕やってるロリスです。よろしく」


「えっ? 農夫なのですか?! シルバーベアを追い払う実力があるのに?」


 自分の予想と違い驚くエリサ。


「いや、あれはマグレですよ」

「いえ、そんなことないです」

「いや、たまたまなんですよ」

「いえ、すごいです」


 謙遜するロリスと、賞賛するマリーの言葉が交互に続く。


(どっちでもいいけど、シルバーベアを追い払ったのは事実。農夫でもナメてかからないように気をつけなきゃ)


 エリサは、自分自身に課された指令を完遂するため、冷静に行動しようと気を引き締めるのだった。



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