第4話 おっさんと女冒険者2

「いや、本当にゴメン! 慌てて手に力が入りすぎたみたい……」


 ロリスは、女冒険者マリーに謝罪しながら、地面に深く突き刺さったツルハシに歩み寄る。


ズボッ!


 そして、軽々と引き抜いた。


 その様子を見ていたマリーは、ロリスの姿を目で追いながら、彼の体つきを上から下までじっくりと観察し、心の中でつぶやく。


(この男、よく見るとすごい身体してるわね? 筋肉がまるで古代彫刻みたい)


 冒険者を長くやっている女性のほぼ全員が、旅先で出会う男に期待などしない。

 経験豊富な女冒険者たちは、旅先で出会う男性に対して期待を抱かないことが多いのだ。それは、ロクな奴がいないからである。

 しかし、奇跡的に自然体で力強く、頼りがいある男性がマリーの前に現れた。

 おっさんだと思っていた顔は、良く見れば彫りが深くて濃いだけで、若さとしては20台中盤ぐらい。人間なら中の上合格ラインである。

 吊り橋効果なのかマリーは直感的にこの男性にトキめいて、一目惚れという感情が芽生えた。


「あ、私こそゴメン。助けてもらったのに暴言吐いちゃった。ええと……改めて感謝しますありがとう。あなたが来てくれなかったら、私は死んでたかもしれない」


 『ニコッ』と、精いっぱいの笑顔を作る女冒険者マリー


 先ほどまで勇ましかった女性が、ロリスに、しおらしく感謝の言葉を述べた。よく見れば妙齢の女性。体中傷だらけだが、顔立ちは整い美しい。ブロンドの長髪からは、この王国周辺の美人によくある、特徴的な尖り耳が見える。一部で古の一族と呼ばれる人々だ。


「いや……助かって良かった……た、立てるか?」


 ロリスは、そう尋ねて手を差し出したが、元々女性免疫がないため緊張気味だ。


「ええ、ありがとう。……あっ! 痛っ!」


 女冒険者マリーは、ロリスの手を取り立ち上がろうとしたが立ち上がれない。しゃがんだ状態で、足首をさすり痛がるそぶりを見せる。


「ん? どうした? 足を痛めたか?」

「うん。足をひねったかな? ちょっと一人じゃ立てないから、肩貸してくれる?」

「わかった」


 ロリスは、女冒険者マリーの横にしゃがみ、肩を貸して立ち上がろうとした。


「うっ! このままだと痛いわ。もう少し体を預けていい?」

「ああ、いいぞ?」


 女冒険者マリーは、返事を聞いた一瞬、顔を伏せてニヤと笑う。その後、彼女は両腕をロリスの首に巻き付けて、大胆に体を密着させた。


 ロリスの鼻腔を、嗅いだことない香油のいい香りがくすぐる。


「ちょっ、ちょっと! 俺は汗だくでホコリにまみれて汚れてるから、そんなにくっつくと汗や汚れが付いちゃうよ?!」


「大丈夫、大丈夫。働いている男性の汗は好きなの私」


 そう言うと女冒険者マリーは、ロリスの汗のにおいを嗅いでからクスッと笑った。ロリスは驚き戸惑いで『えっ!』と声を上げる。

 なんだか突然積極的になった女冒険者マリーに、心穏やかでいられないロリスは、あちこち視線を走らせる。そして、ふと何かを思いついたように叫ぶ。


「あっ! そうだ! あなたの剣、さっき弾かれたよね? 回収しなきゃ!」


 ロリスは、首に巻かれた腕からスルリと首を抜き、女冒険者マリーを地面に座らせると、シルバーベアに弾き飛ばされた剣の元へ素早く走り、剣を拾った。


(えっ、ウソでしょ?! あの筋肉質の大きな体で、この身のこなし? とんでもない逸材じゃない?!)


 その見事な身のこなしに、桃色一色だった女冒険者マリーの頭が冷静になった。このロリスの冒険者としての価値に気づく。


 その時、当人は、盾を持った少女を先頭に、武器を手にした数人の男たちが走ってくるのを見つけた。


「おーい! こっちだ! おーい!!」


 ロリスは、やってきた集団に手を大きく振り、救助を求めるのだった。

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