第2話 二人の女冒険者
ロリスが開墾作業を始めてから半日が過ぎた。昼時をとうに過ぎた頃、遅めの昼食を取ろうとしたところで、弁当を持ってくるのを忘れたことに気付く。
「しまった弁当を忘れた! さすがに腹が減ったな。仕方ない、今日はこれで帰ろう」
『腹が減っては働けぬ』と村の教えにもある。そんな、古い言葉を思い出しながら。ロリスは山を下りていった。
********
同じ時刻、ランデ村近くの街道を進む馬車が、悪路と登り坂のために速度を落としていた。馬車の御者の隣に座る女冒険者マリーは、後部にいる仲間のエリサに声をかける。
「この辺は道が悪く速度を出せない! その上、登り坂で馬に負担がかかるから、馬車を降りて警戒するぞエリサ!」
「はい! マリーさんわかりました!」
リーダー格の年長女冒険者マリーと、仲間の若い女冒険者エリサは同時に馬車から飛び降り、マリーは前方へ向かい、エリサは後方の警戒に就く。二人は馬車の速度に合わせて、木々に囲まれた登り坂を慎重に歩きながら街道の警戒を続けていく。
「坂の上まで行って先を見てくる!」
馬車の先を歩くマリーは、エリサにそう伝えて坂の頂上に急いだ。
「問題なし……と」
しかし、坂の上で状況を確認していたマリーの背後から突然、獣の咆哮が響き渡る。
「グウォォォウッ!」「ヒヒーン!」
ズガシャーン!
「キャァァァッ!」
間髪入れず聞こえる大きな音と女性の悲鳴。
「なんだ?! なっ! あれはシルバーベア!!」
マリーが振り返ると、馬車が転覆し、馬がシルバーベアに襲われている光景が目に飛び込んできた。シルバーベアは襲った馬を今、喰らおうとしている。その後ろでは馬車にあわてて取り付いたエリサが、御者と共に、馬車の中にいた少女を救出しようと必死になっていた。
「あっ、バカ! 興奮しているシルバーベアは周囲に敏感だ! 今、動くと襲われるぞ!」
案の定、その動きがシルバーベアの注意を引いてしまった。
「いかん! エリサ! 盾を構えろ! こっちだ! シルバーベア!!」
マリーはエリサに盾を構えるよう叫び、シルバーベアを引きつけようと剣を抜いて立ち向かう。
「グフォ?!」
マリーの声に振り向くシルバーベア。エリサはその隙に盾を構える。
「オウ? グ? アゥ?」
マリーとエリサを交互に見て、戸惑うシルバーベア。
「ガアアアアッ!」
しかし、次の瞬間。雄たけびと共にマリーの方に駆け出した。
「チイッ! 剣に反応しやがった。 コイツ! 剣を知ってる? 手負いかよ?!」
マリーは足を止めて叫んだ。
「エリサ! 今のうちに客連れて逃げろ! 近くの村で助けを頼んでくれ!」
「はいっ!」
エリサは命令に従い、馬車から這い出た客の少女と御者を連れて村へと走る。
「よし! 頼んだ!」
彼女たちが安全に逃げるのを確認したマリーは一息つく、しかし、彼女の前には、戦いを挑む準備ができた獰猛な獣がいた。
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