開墾筋肉でリトライ!田舎のおっさん冒険者に再挑戦する

与多法行

第1話 開墾するおっさん

 カノン大陸中央に位置するリローウッド王国は、交通の要衝として栄えてきた。現在、季節は初夏を迎え、北方からも大挙して人が寄せ始めている。主要街道沿いの宿場町や商業都市は繁盛記を迎え、猫の手も借りたいほど忙しい。


 しかし、その喧騒から離れた静かな場所も存在する。王国南部の辺境ナミュ領は、ほとんどが山地であり坂道が多く、交通が不便なために訪れる人は少ない。そんな田舎として有名であるナミュ領の、さらに南部山裾にあるド田舎ランデ村に朝が来た。


ピピ、ピチュ。ジュジュジュッ。


「今日も天気が良さそうだ」


 小さな鳥の鳴き声に癒されながら、空を見て大きく息を吸ったロリス。片手斧を腰に付け、ツルハシを肩に担いで今日も朝から山に向かう。


「ロリス、おはようさん。朝からご苦労さんだねえ、気ぃ付けてな」


「リルさん、おはようございます。行ってきます」


 村の中井戸で水を汲むリルばあさんと挨拶を交わし、ロリスは村を出て街道へと進む。あまり整地されてない街道を、歩いて目的地の山まで行く。


ザザザッ、ザザー、ザザッザザザー。


 街道の両側には木々が生い茂り、時折吹き抜ける風が枝葉を揺らしている。スキル【自然のつぶやき】を持つ、ロリスの耳には、風が何かしゃべっているようにも聞こえるが、意味は解らない。


「おっ? 風か。ありがたい、仕事中の暑さがマシになる」


 自然の言葉の意味が解らないロリスは、適当に解釈して風に礼を言った。


ザザザザザー


 何か返事みたいなものを残して、風は去っていく。


 しばらく歩いて、目的の山裾までやって来たロリスは、街道を横断し山を登り始めた。中腹まで登ると、幾分なだらかな開墾地に着いた。開墾地の周囲を囲む50年物の木の一本に目をつけ、おもむろに片手斧を取り出す。


「さて、やるか!」


 ロリスは、その木に片手斧を打ち込み始めた。


コーン! コーン……


 軽快な音を立てながら斧を振り続けると、やがて……


ガツンッ!ギッ、ギギギッ!バギッバギッ! ズザーン!


 一時間ほどで木は倒れた。しかし、開墾はこれからが本番である。ロリスはツルハシに持ち替え、切り株に引っ掛けてから体中の筋肉を総動員させて、切り株を地面から引きはがす。


「グッ! グオオオオッ!」


ミシッ! メメリッ! ズズズズッ!


 すごい音をたてて地面からはがされていく切り株。


ズボァッ!


 土から切り株が抜けたとき、なんとも言えない音がして地面の上に『ゴロンッ』と切り株が転がる。


「よしっ! 抜けた!」


 ロリスは慣れた手つきで、ツルハシを使って切り株をゴンゴン叩き、切り株についた余計な土を落としてから、ツルハシを切り株に引っ掛け放置。


 次に、倒した木の側に行って、片手斧ですべての枝を打ち払った後、片手斧を倒した木に打ち込み、右手の片手斧で木を引きずり切り株の元へ戻る。


 そしてツルハシを左手でつかみ、ズルズルと切り株まで引きずりだす。ロリスの前方には木がうず高く積まれた貯木場がある。


「もう少し! よし! いけっ! ヤアッ!」


 ロリスは貯木場に近づくと、片手斧とツルハシを持つ両腕を、気合い諸共に振って体の前で交差させた。すると切り株と倒した木が、貯木場に向かって放物線を描いて飛んでいく。


ゴゴンッ!


 木と切り株は見事に貯木場に重なった。


「フーッ。よし、次だ!」


 ロリスは、さも当たり前のように次の仕事にとりかかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る