第46話:強大な力にはメリットデメリットある
そんなこんなで、籠手を外せないまま数日間の航海を経て、いかだは広大な海原を順調に進んでいた。
籠手が外せなくなって、ワタシの可憐な可愛さは著しくダウンしてしまったけど、ワタシの魔力でどうにかこうにか動かせるので案外生活に支障はなかった。まあ、海を泳げなくなったり、細かい作業ができなくなってしまったのは結構不便だけど。
だけど、嬉しいこともあった。
「やっとレベルが上がりました!」
どうやら、突然の嵐だとかなんか異常な天候には大量の魔素が絡んでいるらしく、そこで魔力を使ったことでレベルが上がったらしい。つまりは、ハードな状況で濃度の高い魔素を取り入れることができたおかげってことみたいだ。ピンチはチャンスってことね。もう絶対にやりたくない。
まあ、レベルが上がったところでどうというわけでもないし、比較対象が魔王だからいまいちピンとこない。とにかくワタシとしては魔法が使えるようになっただけでも嬉しいんだ。今のところ、ワタシから離れない呪われた籠手を扱うことだけだけどね。
魔王も魔素のおかげで今はすっかり元気になったみたいだし、じいさんは嵐があったことなんて嘘みたいに、相変わらずのんびり釣りをしている。嵐の後って魚釣れるのか?
とにかく、みんな無事で良かった。
積んでいた食料や水もサブのいかだと共になくなってしまったものもあるけど、ほとんど無事だった。生きてさえいればなんとかなる。創世神の杖の欠片も方位磁石もちゃんとある。ホント、奇蹟も魔法もあるんだなって。
「なあ、じいさん、そういえばこの布……」
「おぬしが着ておれ。その布は創世神の加護がついておるのじゃ」
「これ、そんなにスゲーものだったの!? どーして早くくれなかったんだよ!」
「だって、我の服なくなるのヤダもん」
「そのおかげで、ワタシの羞恥心がこじれちゃってるけどね!」
いや、確かに、前にちょっと見せてもらったときに、この世の物とは思えない素材と縫製技術で作られているとは思っていたよ。いや、ガチでこの世の物じゃないんかい。一枚の長い布をぐるっと巻いて、なんか服のようなものとして身に纏っているけど、ということは、ワタシはついに魔王と神の装備を手に入れてしまったということか。
これ、着実に強くなっていってないか? うっかり最強装備になってないか?
しかし、魔王のクソデカ鎧は言わずもがな、じいさんがくれた布も、今までビキニで過ごしてきたワタシにはなんだか少し邪魔くさく思えてしまう。長年の習慣ってガチでこわい。「人としての最低限度の露出を……」「わ、わかってるって!」
ということで、ワタシは布を胸元と下半身を隠すような形のビキニ型に巻いてみることにした。今までとは段違いの防御力になんともいえない安心感と、ほんのちょっとだけ落ち着かなさを感じつつも、まあこれで恥ずかしくないし、誰が来ても大丈夫だ。「そなた、露出しなければ生きられない身体に……」「なってねえよ!」
朝の太陽が昇る中、ワタシは不本意に慣れ親しんでしまったビキニ姿でいかだの先端に立ち、遥か遠くを見つめていた。太陽の光がワタシの美しすぎる髪と艶めかしすぎる肌を輝かせる。
いかだの上でキラキラ輝く水着の美少女。
うーん、実にイン〇タ映えしそうな素晴らしい構図じゃあないか。ま、ワタシはそんなキラキラしたSNSなんてやってなかったからな、完全に偏見だけど。
「ん……?」
ふと、視線の先に何かを捉えた。遠くの水平線の向こうに、小さな点が見える。はじめは漂流するゴミか何かかと思っていた。いや、それでも助かるときは助かるけどさ。
だけど、それはどうやらゴミなんかではなかった。
しばらくそれを、目を細めてじぃっと睨み付けていると。その点は次第に大きくなり、「おいおい、ウソだろ……」緑豊かな陸地あることがはっきりとわかってきた。興奮を抑えきれず、ワタシは思わず声を張り上げた。
「お、おい、じいさん! あそこに陸地があるぞ!」
じいさんと魔王もすぐにワタシが指差す方向を見た。……けど、ワタシの良すぎる視力のおかげで見えただけで、魔王はかろうじて見えたみたいだけど、じいさんはキョトンと首を傾げるばかりだった。
「ふむ、我が創造していない陸地か」
「ということは、海底火山が噴火してできた火山島かもしれぬな」
「とにかく行ってみよう!」
もういかだもボロボロだし、食糧もほとんどない。じいさんが釣った魚とわずかな保存食だけの食事はもう飽き飽きだ! 久しぶりに見た陸にワタシのワクワクは止まらなかった。
「ふおおおおおおおおおほおおおおおお!!!!」
「テンション上がったときのオホ声出ちゃう癖はやめた方が良いぞ、ガルニート」
ワタシが全力全開の魔法も使って全速前進させたいかだは、波しぶきを上げながら陸地に向かって猛烈な勢いで進み続ける。自分でも、この巨大ないかだがこんなにもスピード出せるなんて思ってもみなかった。なんかもう、ちょっと浮いちゃってるまである。一方、じいさんと魔王はただひたすらいかだにしがみついているしかできていなかった。
次第に緑が鮮明になってくる。白い砂浜が見え始め、その背後には豊かな森林が広がっている。
ジェットエンジンでもついてんのかってくらいの莫大な白波が、陽光を浴びてワタシ達の後方に輝く虹を描きながらいかだを押し、ワタシ達を熱烈に迎え入れるかのような岸辺に近づいていく。
そして――
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