第41話:まだまだ続くよ、異世界は

「魔法とは世界を塗り替える力、世界をどうしたいか、その強きイメージが大事なのかもしれぬな」


「世界をどうしたいか、か……」


 魔物も人も共生できる自由な世界を作る。


 魔王には世界を変える明確なイメージがあった。

その想いが強ければ強いほど魔法は強力になる。それこそが彼が魔王たるゆえんであり、つまり、彼の最強の願いこそが彼を魔王たらしめていた。


 ワタシにはそれがない。


 レベルが低いせいもあるかもしれないけど、それよりも、まるでダメなおっさんだったワタシには想像力が足りないみたいだ。


「世界を変える、か」


 そうだ、ワタシはこの世界で何をやりたかったのだろうか。


 伝説の勇者になって剣と魔法で悪者を次々と打ち倒し、最後には魔王も滅ぼして、自分のことが好きな美少女に囲まれて、みんなに讃えられながら悠々自適に暮らす。我ながら実に清々しいほどの欲望にまみれているな。


 そんな、男なら一度は夢見たファンタジー世界をワタシは夢見ていたのではないか。いや、うっすら妄想していただけで、ガチでそれが現実に起きるかもなんて思ってもみなかったけど。


 伝説の勇者でもなければ剣も魔法も使えず、パーティには美少女どころか、じいさんとなんかちいさくてかわいいやつしかいなくて、悠々自適というよりは過酷なサバイバル生活を生き抜いている。


 現実はこうだ。どうしてこうなった。


 それならば、ワタシはこの世界をどう変えるのか。


 実際のところ、ワタシは理不尽に転生させられたこの世界を変えるつもりはないのかもしれない。というか、どうしたらいいのかよくわかってない。


 魔王の話を聞いて、この世界の不条理を聞いて、それでもなお、ワタシはこの世界をまだ知らないのだ。魔王が話してくれたことは結局、島の外で起きている遠い昔の、遠い世界の物語にすぎないのだ。


 そして、もうひとつの不条理な世界。


 ワタシがかつて冴えないおっさんとして日々を無為に過ごしてきたかつての世界。


 そんな世界を、この世界を変えるために想像しようなんて一切思えなかった。だからきっと、あの色褪せた世界を再現しようとした魔法は失敗したんだ。


 ワタシはあの世界に夢も希望も持ってなかったのかもしれない。


 自身の無気力と不勉強の結果からの自業自得とはいえ、毎日を同じ景色と同じ感情だけで過ごすことしかできなかったあの世界に、ワタシは何の魅力も感じていなかったのかもしれない。


 そう考えると、理不尽極まりなかったとはいえ、ここでのサバイバル生活も悪くはなかったんだな。じいさんや魔王とも出会えたし。


「魔法の習得はまた今度でもいいかもしれないな」


「どうした、飽きてしまったのか?」


「いや、そうじゃなくてさ、変えるべきは世界じゃなくてまずは自分からだなって、なんかそう思ったらさ、たぶん魔法って使えないんじゃないの?」


「なるほど、そういう考えもあるな。ガルニート、そなたが異世界よりの転生者だとするならば、もうすでにそなたの世界は変わってしまっている。変えるべき世界はもうないのだ」


「それはそれで、なんか吹っ切れるっていうか、ワタシが魔法使えないのもすっきり収まるような感じがするな」


 魔法は使えない。いや、もしかしたら、いつかはこの世界の真実に気づいて使えるようになるかもしれないけど、今は、そのことに執着していても意味はないだろう。こればかりはワタシの気持ちの問題なんだから。


「案外あっさりと諦めるのだな」


「そりゃあ魔法が使える異世界に転生したんだ、もちろん魔法撃ってみたかったさ。けどさ、今まで魔法なんてなくても、案外なんとかなってんだもん、今さら使えなくても困らないしな、って」


 ずっと考えてたんだ。


 異世界行ってやりたいことって本当に無双することなのか?


 異世界でのんびりライフとか言って、結局は自分の知識をひけらかしていい気分になってるだけじゃないのか?


 転生者は、そんなことをするためだけにわざわざ異世界まで行ったのかって。


 そんなの、別に現代日本でも、世界のどこかでもやろうと思えばできるぞ。


 ワタシはずっと、せっかくファンタジーな世界に来たんだから魔法も使いたいし、魔物を倒したかったし、勇者になりたいと思っていた。


 でも、なんとなく、そうじゃないような気がした。


 ここがどこだろうと、ドッキリで連れて来られた無人島でも、ファンタジー世界でも、ヴァーチャルリアリティでも、そんなのはどうでもいいんだ。


 自分が今いる場所で、自分ができることを精一杯やる。


 たったそれだけでいいんだ。


 それは、決して舐めプがよくないとか、最強だからって敵をいたぶるのはやめろとか、相手の無知を小馬鹿にするのは不快だとか、そういうことじゃない。いや、もちろんダメだろうけど。


 たとえ、魔法が使えなくたって、チート能力がなくたって、自分がうっすい知識しか持ってなくたってできることはある。じいさんや魔王を助けたときみたいに誰かのためにやれることはある。


 こういう気付きはきっと、持たざる者でしかないワタシみたいな冴えないおっさんにしか得られないものだと思う。俺TUEEE系無自覚チート異世界転生者の男子高校生には、冴えないおっさんの悲哀はわからないだろう。つまりそういうことだ。


 ワタシはワタシのできることをできる限りやる。


 ワタシにはそれしかないもん。


 そうとなれば、ワタシはコツコツとレベル上げをしよう。


 そして、ちょっとだけ強くなって、そこでワタシができることをやって、誰かのことをちょっとだけ助けられるような、そんな転生者になろう。


「もう、この島に思い残すことはない。ガチで一切ない」


 だから、ワタシ達の冒険はこれから始まるんだ!


「……あれッ!? もしかしてそういうこと!?」


 ま、まだ何も成し遂げてないよ!? つ、続くよ!

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