第39話:魔法とは何ぞや?
「修行の成果はどうじゃったか、ガルニート。魔王直伝の殲滅魔法は習得できたのか?」
「いやいや、仮にもこの世界を創った創造神がそれでいいのか?」
どうして、みんなこうも世界を滅ぼしたがるの? 怖いんだけど。あと、ふたりはワタシに何の期待をしてるの? ワタシは異世界から転生してきた正義の勇者なのでは? いや、倒すべき巨悪はこの世界にはもうないみたいだけど。
ちなみにあの一番初めの失敗の後は、どうやってもあの感覚を得ることはできなかった。
ただ単にワタシのイメージが貧弱すぎるのか、レベル不足で魔素が足りないだけなのか、それとも、失敗のトラウマか未知の感覚への無意識の拒絶反応か、はたまたただのビギナーズラックだったのか。
魔王も色々教えてくれたけど、やっぱり魔法という概念があまりにも未知すぎて、視野も考えも凝り固まってしまったたおっさんの脳みそではいまいち理解できてない気がする。
魔王曰く、その辺はまた今後の修行でコツを掴めるだろう、とのことだったけどさ。……本当か?
「魔素を取り込める者であっても、元々魔法の才能がない者もいる。気にすることはない」
「いや、それ、何にも慰めにならないんだけど」
魔王をこんなにももさもさの黒い毛玉みたいな可愛らしい姿にしてまで力を受け継いだ異世界転生者だっていうのに、ワタシには魔法の才能がありませんでした、ってのはあまりにも笑えない冗談だ。最初のスペックが低すぎたにしても、もう少し伸びしろがあってもいいんじゃないですかねえ! 魔王から力を受け継いだ、っていうなんかすごいチート感ある感じなのに何もないんすかねえ!
「元々火の民はレベルも上がらなければ魔法を使えんかったのじゃ、それを一朝一夕で魔法を習得するのは無理じゃろうて。そのための修行じゃぞ、ガルニート」
「うーん、これでもワタシ、一応異世界転生者なのになあ」
「時間はたくさんある。じっくりねっちょり修行しようではないか」
「なんか言い方がイヤ!」
でも、転生者特有のチート能力や全ステータスMAXとか、とにかく何かしらの最強設定もへったくれもないワタシにはこれしか方法がない。
ひたすら地道に修行して、魔法を習得して、そして、魔素を取り込んでレベルを上げる。
あれ? これだけ聞くとただのめっちゃ普通の人なのでは? ワタシは主人公ではないのか? ただ終電で寝てただけで理不尽に転生したのに?
それにしても……
「あれが魔法だったんだな」
今さらながらじんわりと実感。いや、何かになる前に失敗したから、実際には魔法じゃないんだけどさ。
だけど。
あの感覚は、確かに魔法だったんだろう。
でも、あの湧き上がる潮流のような身体の内側の感覚は、あの時のワタシの燃え上がるような外側の感覚とは少し違っていた。
もしかしたら、もう少し明確な魔法のイメージを掴めたならワタシにも魔法が使えるようになるかもしれないな。
もう少し魔王に話を聞いてみるか。例えば、魔王が魔法を使うときのイメージとかそんなのを。
「……修行、やるか」
修行編が長くなりそうだ。でもまあそれも悪くはないか。せっかくのワタシがいた世界では決して味わえない魔法の感覚だ、じっくり堪能しようじゃあないか。
急ぐ旅ではないしな。保存食の準備ができるまでの間は魔法の習得に励もうか。こんなに努力するのが楽しいなんて、ふふっ、これも初めての感覚だな。ワタシはそういうのからずっと逃げてきてたのにな。
「ちなみにレベルも上がってないんだけどどういうことですか? ねえ、じいさん? どういうことですかねえ?」
「すごい問い詰めてくるの、おぬし」
「レベルアップのための魔素はレベルが高くなればなるほどに多く必要になってくる。この領域の外の魔素量は異常に薄いからな、レベルは簡単に上がらぬだろう」
「ぬ、ぬう……」
つまり、レベルも魔法もコツコツやっていくしかないのか。
幸い、領域の外に出るのにはもう慣れてしまった。いかだの手繰り方も、嵐が来そうな前兆もなんとなくわかるようになってきた。
毎日巨大ないかだを漕ぎ続けているおかげか、火の民特有の身体能力もどんどん上がっているような気がする。このまま身体能力を活かして格闘家に転身した方が、とかは言わない約束だ。魔法使いたいやないか!
「そうだ、後で、魔法の勉強も兼ねてこの世界のことを教えてくれよ。魔王の知っってることだけでいいからさ」
「ふむ」
「我も聞いても良いか? 我もこの世界がどのようなものかわからぬのじゃ。魔物の視点からの世界も知りたい」
「そうか、じいさんはずっと封印されていたのだったな。わかった、今夜の寝物語にでも話してやろう」
「ありがとな、魔王」
「大した話ではないし、人間からしたらもしかしたら不快な話かもしれぬぞ」
「ま、ワタシもじいさんもそういう先入観はないから大丈夫だろ」
「うむ、なにせ世界観も知らぬうえに、互い以外の人間に会ったことがないのじゃからな」
「……ふたりとも、あまりにも浮世離れが過ぎるな」
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