第22話:みんな誰かの特別
「なあ、ワタシってなんか特別な存在だったりしない?」
「何を言うておる、どこからどう見ても特別じゃろ。おぬしは異世界より転生して来たのだろう?」
「いや、そうなんだけど、そういうことじゃなくてさ」
「特別かどうかなぞ、今さら気にすることかの? ここではおぬしは唯一無二の存在だ」
「人口2人じゃそうだろうね」
「そうではない、この島をここまで発展させたのは他でもないおぬしの力だ」
「うーん、まあ、じいさんも手伝ってくれたけどさ、いや、そういうことでもなくってさ」
なんとなくワタシの言いたいことが伝わってない気がして、少しもやもやしつつも、ほとんどちょっとした村みたいになった我らが拠点をふらりと眺める。
動けるやつが2人もいればモノ作りはずいぶんと捗るし、今までできなかったこともできるようになる。さすがにじいさんに肉体労働をさせるわけにはいかないから、そこはアイディアとか知恵を出してもらったり、たまにちょっとした奇蹟を起こしてもらったりするくらいだけど。
それでも、小屋はちゃんと雨風も凌げる立派なものになったし、いかだはずいぶんとそれらしくなったし、かまどの火力は上がったし、泉の水を引き込む水路も丈夫になった。どうしても糸を紡いで布を作ることはできなくて、未だにギリギリ大事な部分が見えていないだけの紙紐のビキニだけど。
こうなると、次は、もっと文明の利器に踏み込みたいけど、いかんせん知識が足りない。蒸気機関はなんとなく知ってるけど、それをどう生かしたらいいのかとか、それこそ、獲物を捕まえたはいいけど屠殺のやり方を知らないとか、そういうことだ。便利になりすぎた現代において、別に必要じゃないことは逆に何も知らないのだ。こうなるとわかっていればめちゃくちゃ勉強したのに! ……いや、というか、誰が異世界転生してガチサバイバル生活するなんて予想できるだろうか。
「そういえばさ、どうしてこんな魔素の無い場所、なんてところを創ったんだ? 魔素ってのはこの世界の万物にとって必要なモノなんだろ?」
こんな理不尽な場所さえなければ、ワタシは異世界から来た最強チート勇者として、美少女を何人も侍らせながら俺TUEEEEE無双していたはずなのに。
それが、一体何がどうなってこんなファンタジーのへったくれもない魔力が使えない場所に突然転生するんだ。ほとんど全裸みたいな紙紐のビキニでじいさんと過ごす少女のことも少しは考えてほしい。どーいいからさっさと終電でうたた寝してただけのワタシを転生させやがった張本人出てこいや!
「ここは世界における空白地。世界の源である魔素がなければ何もない場所になるはずだったのじゃ」
「は? けどさ、ここは……」
「そう、ここには自然があった。我もここに流れ着いたとき大層驚いたぞ」
そうか、だからあの時、あんなリアクションだったんだ。どうして何もないと思っていたはずの場所に海どころか草木が生い茂るような島まであるんだ、って。
「自然とは神すらも計り知れぬ力を持っておるのだと、改めて思ったわい」
そこに何もなくても、海水は満ちるし、火山は噴火して島にもなる。そこに植物の種が運ばれて来れば草木も生える。
この世界にもどこの世界にも、何もない、なんて場所はないのだ。
そう思うと、何も持ち合わせていなければ、知恵も勇気もチートもレベルもないワタシだって、きっと何かできるんじゃないかと希望が湧いてくるような気がする。そういうのもあるよね、何にも持ってないけど成り上がる、みたいなやつ!「レベルは絶対の法じゃぞ」「テンション下がること言わないで」
この世界はレベル至上主義なのか。じいさんはそういう世界を創り上げたのか。まあ、超最高レベルの俺TUEEEEさせたい、というよりもレベルを上げたその先を目指してほしい、って感じだろうけど。
「ってゆーか、空白の地って何なのよ、そんな場所創っても意味ないじゃん」
「世界の隅々まで埋め尽くそうとしたのだがな、ここだけは唯一どうしてもできなかったのじゃ」
「どゆこと?」
「こここそ我が世界を創造するために立っていた場所だ。最後にここを離れたときに我は封印されてしまったのじゃ」
「な、なんか神話っぽい」
つまり、最後の最後に創りかけで封印されてしまったせいで、全体干渉不可侵領域なんてもんができてしまったってわけか。ガチでこの世界のやつらは世界創造の瞬間から余計なことしかしねえ。一人の異世界転生者の運命が大変なことになってるのを、じいさんを封印したどこかの誰かさんは反省してほしい。そして、遅くないからワタシに最強のチート能力を与えてほしい。
「あれ? じゃあ、ここって結構世界にとって神聖な場所なんじゃねえの? 魔素がない場所って言っても創造神が立っていた場所だぞ?」
この世界のことはわからないけど、ワタシがいた世界じゃ、神様が訪れた場所とか、修行した洞窟、いつも持っていた物、血が付いたらしい物とかそんなのまでめちゃくちゃ大事にされているはずだぞ。神様が実際にここに立っていて、世界創造をここでした、なんてエピソードでここが聖域になってないなんてそんなことがあるだろうか。
「それは我にはわからぬ。後世の神話が我が世界創造をどう語り継いできたのかは計り知れぬでな」
じいさんは特にそんなことを気にしている様子もなかった。まあ、神様なんて案外テキトーなのかもな。
だけど、ワタシはなんとなくすっきりしなかった。身内をバカにされたときみたいな気分に近い。このぷるんっと揺れる胸にもやもやした何かがつっかえている。この世界の住民はじいさんのことを知らなさすぎではないか。
ワタシはこの世界の神話を知る必要がある。
この世界の真実、いや、真実となってしまっていることを知って、その原因を突き止めたい。まあ、大方、じいさんを封印した何者かのせいなんだろうけど。
そのためにはこの島から出ないとな。まずはそこからだ。神話なんて壮大なものを追いかけるより先にやるべきことはまだまだ目の前にたくさんあるのだ。
「じいさんのその服の布、ちょっとでいいからくれない? うら若き美少女がこんなセンシティブな格好はマズいでしょ」
「安心せい、我がおぬしを娶ることはない」
「そういうことじゃないよ」
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