第19話:世界観マシマシ

「――レベルとは、この世界に存在する魔力の源、魔素を自身へと取り込み、最終的には世界の理を超越するためのものだ」


「なんかスケールでかい事を言い出しているような気がする!」なるほど、わからん。


「まあ、実際にそこまで至る者はいないだろうがな。この世界の創世より、原初の渦に辿り着いたのはわずかに3人ほどだ」


「よし、次から次へと訳わからん言葉を畳みかけるのをやめろ。聞いているこっちの身にもなれ、こちとら前知識ゼロで未知の世界に放り込まれた異世界原人やぞ」


 とにかく、今出てきた大事そうな単語の一つ一つを懇切丁寧に説明してもらおうやないかい。いい加減世界観とかその辺を知りたい。もうずっとサバイバルしかしてない。


「本当に何も知らぬままここに来たのだな」


「最初からそう言ってるやろがい。お願いだから、異世界転生するときはチュートリアルもしっかりやってください!」


 というか、じいさんが言ってることはこの世界の人でもわからんのでは? そういう宗教の勧誘だと思われても仕方ないくらいの胡散臭いこと言ってたぞ。いくらなんでも、さすがにもうみんな騙されないと思うな、ワタシ。


「この世界の者は皆、生まれ落ちた瞬間より、無意識に魔素を取り込み、大なり小なり魔力を持っているのだ。確かに渦へと至ろうと志す者はもはやおらぬかもしれぬ。が、レベルを上げれば様々な魔法を行使し、身体を強化し、病を治し、一面の花畑を作り出すこともできるのだ」


「しゅ、しゅごい、ガチでファンタジーやないか」


 なんか突如としてこの世界の解像度がマシマシだ。魔法は決して特別なものじゃなくて、普通に存在していて、だけど、それを行使するためには魔素を取り込んでレベルを上げなくちゃいけない。おお、なんとなく腑に落ちるような設定じゃあないか。「創造主を前に設定とか言うでない」「人の心読むのやめて」


 だけど、レベルや魔法についてはなんとなくわかったけど、それでもワタシにはひとつ納得いかないことがある。


「ねえ、それじゃあ、どうしてワタシはレベル上がんないの?」


 魔素っていうのがこの世界のありとあらゆる場所に存在している、というのなら、ワタシだって少しくらいレベルが上がっていてもいいはずだ。いくらワタシが異世界転生者でその要領を得なかったとしても、だとしてもだ、この身体にはちゃんと魔素を取り込める機能は備わってるんじゃなかろうか。


「この島で魔法は使えんし、レベルも上がらぬ」


「えッ!?」


「この辺りは魔法の源となる魔素がない領域、絶対干渉不可侵領域だ」


「え、ということは……」


「ここでは魔法は使えず、魔素を糧とする魔物もおらず、そして、魔素を取り込み自身をレベルアップすることもできない」


「嘘だッ!!!」


 絶望的で衝撃的な真実が告げられる。


 こうして、やたらとあっさり、今までの謎がほとんどこれでわかってしまった。つまり、この辺りはレベルアップに必要な魔素もないし、元いた世界でのただの無人島となんら変わらないってことか。確かに、森の中にも海にも魔物の姿すらなかった。ガチでファンタジー要素皆無だった。ずっと無人島でサバイバルしてただけだった。


 なんて場所で転生してしまったんだ。こんなピンポイントで魔素がない領域って何?


「やい、じいさん、その絶対干渉なんちゃらとはなんだ、そんな都合のいい場所があってたまるか!」


「魔素は自然界の存在しているが、どこでも一定ではない。つまりはそういうことじゃ」


「本っっっっ当にわかんない! なんでここだけ魔素がないんだよ!」


 ピンポインツでこんな訳わからんところに転生されられたワタシの身にもなってほしい。ワタシをここにリスポーンさせたやつを今度こそ小一時間問い詰めてやりたい。異世界転生者にファンタジーさせないとはどういうつもりだと、異世界転生してくるやつがそうそう都合よくサバイバルとかマイナーな知識持ってるわけじゃないんだぞと。


「あ、さてはここが世界にとって結構大事な場所だとか、そういう感じ?」


「いや、ここはただの無人島だ。そして、どっちかというと、絶対干渉不可侵領域はこの世界の者において忌み嫌われている」


「それはそうだろうね!」


 魔法が身近にあるこの世界の住人にとっては、魔素ってのは空気みたいなもんだというのは想像に難くない。空気がなく、そして、魔素がなけりゃそのうち自慢の魔法も使えなくなる。そんな場所なんて嫌がられるのは当然だろう。


 魔素とかレベルアップの件はなんとなく理解できたけど、この島、正確にはこの島の周囲に魔素が全然ない、っていうのだけが全然納得いかない。そりゃあ、ワタシをここに召喚したやつも近づいてこないわな。


「じゃあ、ワタシ達はどうすればいいんですか?」


「脱出したいのならば船でも作ろうか」


「それは無理だ。もうやってみたけど、自分のいる場所を把握できる方法を見つけられなかった」


「磁石とか」


「どうやったら磁力って生み出せるんですか」


「雷を鉄鉱石に直撃させて……」


「この島の岩に鉄は含まれてないと思います」


「そうか……」


 白い顎髭をいじいじしながら、しょんぼりとうなだれる。じいさんの叡智とやらがさっぱり役に立たない件。


 ダメだ、このじいさんの叡智とやらは創世期で止まっている。ずっと封印されていたんだから仕方ないが、となると、このじいさんは現代では本当に役に立たない可能性があるぞ。完全に時代遅れすぎる。


「クソぉ、せめて方角か行く先がわかればなあ」


「わかるぞ」


「えッ!?」


「なにせ、この世界は我が創ったのじゃ、どこに何があるのかくらいは容易くわかる」


「じいさん、めっちゃ叡智じゃん!」


 え、これ、つまり、じいさんには目的地がわかるってことぉ? この世界の全てを把握できさえすれば、方角を確認するまでもない。


「でも、距離感とか目印とか、何もない海の上だとそういうのないよ?」


「何を言っておる、そんなもんはたくさんあるだろ」


「あぇ?」


 じいさんがふと空を見上げる。そこには、雲一つない青空と、そして……


「太陽か!」


「そう、太陽も我が創った、そして、夜には星と月が出ているであろう。それらは皆我々の位置を教えてくれるものだ」


 そうだ、昔の人は太陽の位置や星座の形なんかで自分の位置を把握していたのだと、どこかで見たような気がする。その時はそんなことできるやつなんておらへんやろ、と思っていたが。


 しかし、なんとこのじいさんはそれら全てを創ったとか言っている。それをじいさんが全て把握できるならば、我らが航海に怖いものはないだろう。


「しかし、我は星の輝きを全て見ることができぬのだ」


「あ、もしかして老眼か? それならワタシに任せてくれ、視力をひたすら鍛えてたからほとんど星は見ることができると思うぞ」


 こんなところであのしょーもないと思われていた修行が役に立つ日が来るとは思ってもみなかった。これでようやくこの島を出ることができるかもしれない。


 なんだか急にこのただの無人島生活にも光明が差し込んできたぞ。やっぱり人との出会いって大事なんだよ、いつまでも一人語りって良くないって。やってることは物作りだけであまりにも地味すぎるもん。


 創造神を自称するじいさんと(元)おっさんが巡るファンタジーの世界が今始まろうとしている! ……じいさんが余計すぎるな。いや、ワタシも元おっさんだから何と言えないな。フレッシュ感がまるでない。

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